筋炎特異抗体別サブグループ分類による皮膚筋炎の診断・治療方針のパラダイムシフト

新・皮膚科セミナリウム

皮膚筋炎

皮膚筋炎は,炎症性筋疾患の一つであり,筋炎特異自己抗体でサブグループに分類される.間質性肺炎が必発の抗 Jo-1 抗体含む抗ARS抗体陽性例,無筋症性皮膚筋炎で急速進行性間質性肺炎を起こす抗MDA5抗体陽性例,悪性腫瘍に合併する抗 TIF1γ抗体陽性例,体幹筋障害が問題となる抗NXP2抗体陽性例,広範な皮疹を呈する抗 SAE 抗体陽性例,筋炎が前景に立つ抗Mi2β抗体があり,この分類が治療方針も決定づける.

抗ARS抗体

皮膚症状に「機械工の手」,発熱や多発関節炎,間質性肺炎,レイノー現象,乾燥症状を伴うことを特徴としていることと定義されている抗synthetase症候群と独立して考えるべきとする意見もある.

抗細胞質抗体であり抗核抗体は陰性もしくは抗細胞質抗体

本邦の保険診療で測定できる抗ARS抗体(ELISA 法,MBL 社)では,抗ARS抗体のうち,抗Jo-1抗体,抗PL-7抗体,抗PL-12抗体,抗EJ抗体,抗KS抗体を検出できるが,抗OJ抗体,抗Zo抗体,抗Ha抗体は検出できない.

皮膚症状

機械工の手が特徴で,手湿疹様にみえるが生検すると個細胞壊死の目立つ苔癬反応を呈し,一方で,湿疹様海綿状態や乾癬様表皮肥厚・錯覚化を伴う病理組織像が得られ,強い炎症が起こっていることが分かる.
筋炎の発症・再燃と連動する.

筋症状


筋炎は,臨床的にはPM/DMとして典型的な,近位筋を中心とした筋力低下を来す.

DM抗ARS抗体DM
補体制御性微小血管炎が虚血を起こして筋束周囲性萎縮(perifascular atrophy)を呈する.補体制御性微小血管炎が認められず,筋線維では筋束周囲性壊死(perifascular necrosis)の像の方が優位にみられる.
I 型 interferon(IFN)がその病態に関与
I 型 IFN 反応性蛋白MxAが筋線維で高発現
PMと同様にMxAを発現しない
皮疹の病理組織像でも同様の所見あり

間質性肺炎

抗ARS抗体陽性例では,間質性肺炎が必発

慢性進行性で,肺 CT ですりガラス状陰影を呈し,肺線維症による肺体積の減少がみられる.

組織型は nonspecific interstitial pneumonia(NSIP)または organizing pneumonia(OP).

抗 PL-12 抗体,抗 KS 抗体,抗 OJ 抗体陽性患者では,発症時・経過中共に筋炎を発症してこない症例が4分の3以上

治療

発熱,関節炎といった炎症所見や筋炎に対して,

  • ステロイドパルスを含む高用量ステロイド
  • 大量ガンマグロブリン静注療法(intravenous immunoglobulin:IVIG)

間質性肺炎に対しては,

  • タクロリムスやアザチオプリンの併用
  • シクロフォスファミド静 注 療 法(intravenous cyclophosphamide:IVCY)の併用

抗ARS抗体と悪性腫瘍は関連が薄く,免疫抑制剤は使いやすい

メトトレキサートは,その副作用に間質性肺炎があることに注意が必要

抗MDA5抗体

2005年に抗CADM-140抗体として本邦より報告

CADM(clinically amyopathic dermatomyositis)のとおり筋炎はないか軽微

致死的な急速進行性間質性肺炎と密接に関連

抗細胞質抗体であり抗核抗体は陰性もしくは抗細胞質抗体(高力価で陽性は誤植)

ELISAが保険適応

抗MDA5抗体,血清フェリチン値が病勢に相関

皮膚症状

真皮上層の血管傷害を反映する,圧迫部位の紫紅色斑を呈するのが特徴的.

  • 手掌紫紅色紅斑・丘疹(palmar violaceous macules/papules)
    逆ゴットロン徴候にも含まれ,鉄棒豆部位に認められる紫紅色斑
  • 対輪・耳輪紫紅色紅斑(antihelix/helix violaceous macules)
    耳介の圧迫部位認められる紫紅色斑

ヘリオトロープ疹やゴットロン徴候・丘疹も認められる

治療

急速進行性間質性肺炎が致死的

  • ステロイドパルスを含む高用量ステロイド
  • タクロリムス
  • シクロフォスファミドパルス
  • 大量ガンマグロブリン静注療法(intravenous immunoglobulin:IVIG)
  • 血漿交換

予後因子として間質性肺炎の一般的な評価,抗MDA5抗体,血清フェリチン値の推移に注意

展望

近年では,DMの中でも,特に抗MDA5抗体陽性例の間質性肺疾患や皮膚症状で I 型 IFN の関与が見出されている.

DMに対しては,抗 IFNα 抗体 sifalimumab など I 型IFNを標的とした炎症性筋疾患治療や,ヤヌスキナーゼ阻害薬によるサイトカイン標的療法も試みられており,特に抗MDA5 抗体陽性例への適応が望まれる.

抗TIF1γ抗体

成人・小児DM患者の30%で陽性

成人では,老年例以外に若年女性の発症小ピークがある.

成人例の 50~70% で内臓悪性腫瘍を合併

間質性肺炎合併は15%以下

皮膚症状

時にびらん・潰瘍化する鮮紅色の皮疹を呈し,広範に拡大する.

筋症状

近位筋,体幹筋の障害を起こし,嚥下障害,構音障害を伴う.

特に進行期悪性腫瘍を伴う症例では,筋炎と,悪性腫瘍の悪液質による筋蛋白異化,治療薬のステロイドによる筋蛋白異化が混在し,起床困難となりやすい.

若年女性例では,悪性腫瘍もなく,CADM の臨床像を呈することが多い.

治療

悪性腫瘍合併例では,免疫抑制剤使用は制限されることに注意

  • ステロイドパルスを含む高用量ステロイド
  • 大量ガンマグロブリン静注療法(intravenous immunoglobulin:IVIG)

ステロイドによる筋蛋白異化亢進に注意

抗NXP2抗体

当初,小児 DM 例で検出される抗 MJ 抗体として報告

小児DMで20~25%に陽性

抗核抗体であるが,抗体価は低い

ELISA キットは市販されておらず,免疫沈降法がもっとも確立された同定法である.

皮膚症状

広範囲に及ぶ症例から,ほぼ皮膚症状を呈さずに PM と診断される症例もある.

長期の経過ののちに石灰化を来してくるリスクがある.

筋症状,間質性肺炎,悪性腫瘍

重症例は壊死性筋炎.

間質性肺炎は認められない症例が多いが,併発したという症例報告もある.
成人例では内臓悪性腫瘍の併発率も高い.

治療

筋炎が重症で体幹筋障害を来すため,筋炎の治療に迅速に取り掛かる必要がある.

免疫抑制剤を使用する場合には,悪性腫瘍のスクリーニングを十分行う必要がある.

抗SAE抗体

成人・小児共に検出され,成人 DM の 2~8% を占める.

抗核抗体抗体価は中等度(320 倍など)を呈することが多い.

市販されている ELISA キットはなく,免疫沈降法がもっとも確立された同定方法である.

しばしばCADMで発症.

当初は特に皮膚症状が顕著であり,筋炎が目立たないが,のちに体幹筋障害が問題となる可能性が高いため,CADM と思い込まずに,治療が必要.

皮膚症状

しばしば CADM で発症
皮膚症状は広範囲
肩甲骨下縁を避ける特徴的な像を呈する(Angel-wings 徴候

筋症状,間質性肺炎,悪性腫瘍

皮膚症状が先行するものの,のちに体幹筋障害が顕著となって嚥下障害が問題となる例が多
い.

間質性肺炎,悪性腫瘍の合併例もそれぞれ半数以上である.

抗Mi2β抗体

小児から成人例まであり,DM 症例中 20% 程度を占める.

日本人では比較的頻度が低い.

ELISA キットが保険適応.
抗核抗体は高力価.

症状

典型的な DM と称される.

筋炎は,CK が高く,病理組織学的にも重症な筋炎を起こすが,体幹筋障害は強くなく,嚥下障害の頻度は低い.
間質性肺炎や悪性腫瘍合併例も見られる.

治療

筋炎は伴うが,難治性である体幹筋障害が強くないため,ステロイド反応性がよい.

まとめ

  抗ARS抗体 抗MDA5抗体 抗TIF1γ抗体 抗NXP2抗体 抗SAE抗体 抗Mi2β抗体
抗核抗体 陰性ないし
抗細胞質抗体
陰性ないし
抗細胞質抗体
低力価 低力価 中程度 高力価
検出キット
ELISAは保険適応
ELISA ELISA ELISA 免疫沈降法 免疫沈降法 ELISA
皮膚症状 機械工の手 血管傷害性
手掌紫紅色紅斑・丘疹
対輪・耳輪紫紅色紅斑
重度
びらん
潰瘍化
重度~なし
小児で石灰化
重度
広範囲
Angel-wings 徴候
あり
筋症状 近位筋障害 なし~弱 近位筋,体幹筋障害
若年はなし
体幹筋障害
重度
体幹筋障害 近位筋障害
間質性肺炎 必発
慢性進行性
急速進行性 なし あり~なし 半数 あり~なし
悪性腫瘍 なし なし あり(老年) あり~なし 半数 あり~なし

日皮会誌:130(12),2535-2541より改変

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