接触皮膚炎診療ガイドライン

ガイドライン

接触皮膚炎診療ガイドライン2020皮膚科の臨床2020年12月号を中心にまとめました.

病態

刺激性接触皮膚炎
皮膚に接触した刺激物質が障害部位より侵入して角化細胞を刺激してサイトカイン,ケモカインの産生を誘導することによる.
正常な皮膚では分子量 1,000 以上の物質が角層を通過することはないと考えられているが,現在の生活環境においては角層の障害がおこる機会が多くなっている.
アレルギー性接触皮膚炎
微量のハプテンで皮膚炎を起こし,感作相と惹起相からなる.
通常,湿疹反応や小水疱,痂皮などの症状は原因物質が接触した部位を超えて認められ,刺激反応と異なる点である.
  • 感作相
    接触アレルゲンはほとんどが分子量 1,000 以下の化学物質でハプテンと呼ばれる.
    ハプテンが皮膚表面から表皮内を通過して蛋白と結合しハプテン蛋白結合物を形成する.
    このハプテン蛋白結合物を抗原提示細胞である皮膚樹状細胞(Langerhans 細胞,真皮樹状細胞)が捕獲して所属リンパ節に遊走し抗原情報を T リンパ球に伝え,感作リンパ球が誘導されることにより感作が成立する.
  • 惹起相
    感作が成立した個体に再び接触アレルゲンが接触後,表皮細胞より種々の化学伝達物質,サイトカイン,ケモカインの産生が見られる.
    海綿状態を主とした湿疹性の組織反応が形成されアレルギー性接触皮膚炎が発症する.
光接触皮膚炎
光接触皮膚炎のほとんどがアレルギー性.
  • 光毒性接触皮膚炎
    物質に紫外線が当たり,それによって活性酸素が発生し組織・細胞傷害をもたらすもの
    感作を必要としない.
  • 光アレルギー性接触皮膚炎
    光抗原特異的な免疫反応機序によって起こったもの.
    感作を必要とし,T 細胞が媒介する.
全身性接触皮膚炎・接触皮膚炎症候群
  • 全身性接触皮膚炎
    接触感作成立後に同一抗原が経口・吸入・注射など非経皮的なルートで生体に侵入することによって全身に皮膚炎を生じたもの.
    金属が原因の例は全身型金属アレルギーと呼ばれることもある.
  • 接触皮膚皮膚炎症候群
    接触感作の成立後,同一の抗原が繰り返し経皮的に接触し,強いかゆみを伴う皮膚病変が接触範囲を超えて全身に出現するもの.
    典型的なものは自家感作性皮膚炎様の症状となるが,これは湿疹反応が引き起こされた接触部位から経皮的に抗原が吸収されて血行性に散布されて生じるものと推測されている.

疫学

  • 20~30 歳代,50~75 歳代に多い
  • JSA2015=パッチテストパネル(S)(佐藤製薬)+塩化第ニ水銀,ウルシオール
  • JSA2015は日本人で概ね陽性率が1%以上のものが選択基準の目安として採用されている.
  • JSA2015 (2016 年度)
    1.硫酸ニッケル(男<女)
    2.金チオ硫酸ナトリウム(男<女)
    3.ウルシオール(男>女)
    4.パラフェニレンジアミン(男<女)
    5.塩化コバルト(男>女)
    イソチアゾリノン系防腐剤の陽性率も高くなってきている.
  • アレルギー性接触皮膚炎の原因製品全国調査
    化粧品・薬用化粧品(54%),医薬品(25%),装身具・装飾品(9%)
    化粧品・薬用化粧品(染毛剤,シャンプー,化粧下地,化粧水)
    医薬品(市販薬,点眼薬,ステロイド薬)

パッチテスト

  • JSA2015は日本人で概ね陽性率が1%以上のものが選択基準の目安として採用されている.
  • JSA2015=パッチテストパネル(S)(佐藤製薬)+塩化第ニ水銀,ウルシオール
  • 21箇所以内は,1箇所につき16点,22箇所以上は1連で350点.
  • パッチテスト試薬としては,パッチテストパネルⓇ(S)22 種と鳥居薬品のパッチテスト試薬(金属など 34 種)が保険承認
  • プレドニゾロンを 1 日20mg 以上経口内服している患者にはパッチテストを実施しないことを推奨.
  • 抗ヒスタミン薬,免疫抑制剤の併用については十分なデータがない.
  • パッチテスト開始前の4週間は強い日焼けを避けるよう指示.

患者の持参品

  • 固体製品である衣類,ゴム,木,紙はそのまま貼布する.衣類は細かく切りチャンバーに載せる.ゴム手袋やゴム長靴は薄く適切な大きさに切り,裏,表に分けて貼布する.
  • 外用薬や化粧品(クリーム,メイクアップ製品)など直接皮膚に塗布し,洗い流さない製品はそのまま貼布する.
  • シャンプーやリンスなど洗い流す製品は 1% aq(水溶液)に調整し貼布する.
  • ヘアカラー剤やパーマ液は,製品を用いたオープンテストを行う.
  • 植物は葉と花びらはすりつぶし,茎と厚い葉は薄切りにする.刺激性のある植物は 10%水またはエタノール抽出液を作製し貼布する.
  • 食品はそのまま貼布する.
  • 金属製品はヤスリなどで削り貼布する.
  • 未知の物質を貼布する場合は,オープンテストから始める.
  • pH4 以下,pH9 以上の物質は貼布しない.
  • 農薬は経皮吸収による中毒性があるため,それによるアレルギーが確実でない限りはパッチテストを推奨しない.必要であればオープンテストを実施し,その後,セミオープンテスト,クローズドパッチテストを行う.

オープンテスト

  • 塗料,にかわ,オイル,香料,染毛剤,パーマ液,脱毛クリーム,ジェルネイル,揮発性製品などに用いる.
  • 製品(原液)を背部や前腕に 5×5 cm2 を限度に直接塗布し,20~30 分後に膨疹反応の有無を判定し(即時型反応の確認),その後,通常のパッチテストと同様に判定する.

光パッチテスト

  • 同じ試薬を載せたパッチテストユニットを 2 セット準備し,背部 2 カ所に通常のパッチテストと同様に貼布する.
  • 24 時間後に一方のユニットを剝がし,その部位に UVA5 J/cm2 を照射し遮光する.判定は通常のパッチテストと同様に判定する.
  • UVA 照射側と非照射側共に反応のある場合は通常のアレルギー性接触皮膚炎と,照射側のみ反応が強く光毒性を否定できる場合は光アレルギー性接触皮膚炎と判断する.
  • なお,光線過敏が疑われる患者には事前に UVA の最小反応量(minimal response dose;MRD)を測定することが勧められる.日本人の MRD は約 10~15 J/cm2 である.
  • ケトプロフェンが光アレルギー性接触皮膚炎の代表的薬剤

ROAT(Repeated open application test)

患者が各自で行う試験

  1. アトピー性皮膚炎など背部に湿疹病変がありパッチテストが困難な場合,
  2. 使用可能な製品のスクリーニング,
  3. パッチテストの反応が偽陽性もしくは偽陰性で診断がつかない場合

ROATを実施する.

  • 市販の製品や試薬を肘に近い前腕もしくは上腕に 1 日 2 回反応が出現するまで,あるいは反応が出現しなくても 2 週間は塗布する.塗布サイズは 3×3~5×5 cm2 とし,反対側にコントロール物質を塗布する.
  • その際,両者はブラインドにした方がよい.

判定

  • 試薬を貼布後 48,72 又は 96 時間,そして 1 週間後に判定を行う.
  • 金属試薬は刺激反応を誘発しやすい.
  • 硫酸フラジオマイシン,ステロイド含有外用薬,金などは陽性反応が 4 日,もしくはそれ以降,遅れて誘発される傾向がある.
  • アレルギー反応はパッチテストユニット除去後も反応が持続し,刺激反応は時間の経過と共に弱まっていく傾向がある.
ICDRG基準(Internationl Contact Dermatitis Research Group)
反応なし
+? 紅斑のみ
紅斑+浸潤,丘疹
2+ 紅斑+浮腫+丘疹+小水疱
3+ 大水疱
IR 刺激反応
NT 施行せず

JSA2015

金属 硫酸ニッケル ニッケル合金、ニッケルメッキ、歯科用合金、染料、時計、塗料、チャック、コインなど
50,100,500円玉に使用.
歯科治療でよく使用されるパラジウムに交叉.
EUでは制限されているが,日米では規制なし
男<女
塩化コバルト ニッケル,クロム,モリブテン,鉄,タングステンなどの合金として使用.
セメント,ファスナー,エナメル,鍵,絵の具,シリカゲル.
コバルトブルー,亜鉛と複合でコバルトグリーン
メチコバール(ビタミンB12)にコバルトの構造があるので注意.
パッチテストでは点状紫斑のような刺激反応を呈することがあるので判定に注意.
性差なし
重クロム酸カリウム 3価より6価クロムの方が皮膚透過性があり,接触皮膚炎を起こしやすい.
パッチテストも6価クロム
セメント、なめし剤、クロムメッキ、歯科用合金
黒や紺などの深い色の染料
EUではセメントに6価クロムの規制
男>女
塩化第ニ水銀 常温で凝固せず,20℃で気化するため,経気道的に吸収して全身性接触皮膚炎(Baboon syndrome)を生じることがある.
歯科材料のアマルガムで過去にしようされていたが,今は使用されていない.
水銀体温計や,局所消毒薬は2020年までに廃止.
防腐剤として使用されるチメロサールが,エチル水銀チオサリチル酸ナトリウムという水銀化合物で注意.(下記)
金との交叉反応あり.
金チオ硫酸ナトリウム 柔らかで融点の低い金属.
アクセサリー,装飾品,歯科材料,血管内ステントなどに使用.
基本的に合金.
抗リウマチ薬としても使用.
イオン化しにくい.
金化合物のパッチは1週間後以降に陽性反応がでることがあるため,パッチ貼付後1ヶ月後も観察することを推奨.
男<女
防腐剤 パラベンミックス 食品、石鹸、化粧品、外用剤など
パラベン配合の製品のパッチテストでは陽性反応が出にくいのでパラベンミックスで調べることが重要.
ホルムアルデヒド 衣類の仕上げ剤、接着剤、防腐剤、塗料など
生後24ヶ月以下の衣服と,成人の衣服の二段階で基準値が設けられている.
日本では化粧品に配合するのは禁止されている.
海外の化粧品に注意.
遅延型アレルギーだけでなく,即時型アレルギーを生じることがある.
歯根管治療のパラホルムアルデヒドを含む治療薬の挿入や,破傷風トキソイド,3種混合ワクチンに含まれる製品がある.
チメロサール エチル水銀チオサリチル酸ナトリウムという水銀化合物
殺菌作用があるため,消毒剤やワクチンの防腐剤として使用.
ピロキシカム(フルカム)による光線過敏に注意.
国内の化粧品では配合されていない.
インフルエンザ,B肝,百日咳ジフテリア破傷風混合ワクチン,破傷風トキソイドなどで使用されるが,配合されていない製品もある.
イソチアゾリノンミックス 外国製化粧品、洗い流すタイプのシャンプー・リンス、工業用防腐剤など
製品パッチテストでは1%に希釈するため陽性反応がでない.
2016年に,日本ではメチルイソチアゾリンを化粧品に配合するのを自粛するよう勧告.
染料 パラフェニレンジアミン 酸化されると黒色になる酸化染料.
他の酸化染料剤との交叉あり.
PPDに感作された場合は,鉄イオンと多価フェノールの非酸化染料剤に切り替える.
黒ゴムミックス,プロカイン,エンゾカイン,ハイドロキノン,ディスパースオレンジと交叉
即時型の報告もあり.
ゴム添加剤 メルカプトベンゾチアゾール ゴム製品
メルカプトミックス ゴム製品
カルバミックス ゴム製品(ブーツ、靴、ゴーグル、イヤホン、医療用手袋など)
チウラムミックス ゴム製品(ブーツ、靴、接着剤、プラグ、ゴーグル、マット、ヘッドフォン、ホースなど)
黒ゴムミックス 加硫促進剤ではなく,老化防止剤として黒ゴム製品に添加.
PPDとの交叉に注意.
樹脂 ロジン インク、ニス、塗料、染料、ワックス、化粧品、接着剤など
滑り止めとして,野球のロジンバック,ダンスシューズ,バイオリンの弓への塗布など.
紙ナプキンや艶のある紙製品の表面にも使用.
エポキシ樹脂 接着剤、コーティング剤など
優れた電気絶縁性を持つため,電子回路の基盤やICパッケージの封入剤として使用.
職業性の接触皮膚炎の原因となることが多い.
接触皮膚炎症候群やair borne contact dermatitisにより,直接接触する部位だけではなく,顔面や頚部にも皮膚炎が生じる.
p-tert-ブチルフェノールホルムアルデヒド樹脂 ゴム・革製品の接着に優れる.
靴、ハンドバック、時計のベルト、帽子、ベルトなどに使用.
1週間後以降に陽性反応がでることがあるため,パッチ貼付後1ヶ月後も観察することを推奨.
薬剤 カインミックス 市販外用薬,局所麻酔薬,疼痛治療薬など
塩酸リドカインは含まれていない.
フラジオマイシン硫酸塩 ゲンタマイシン,バラマイシン,カナマイシンなどの他のアミノグリコシドと交叉.
ステロイド薬と配合されたフラジオマイシン硫酸塩感作例では,製品パッチのみでは偽陰性となることが多い.
パッチ1週間判定で陽性になることが多い.
香料 香料ミックス 食品、キャンドル、香水、トイレットペーパー、化粧品、外用剤、石鹸など
ペルーバルサム 香料、外用剤、ソフトドリンク、化粧品、接着剤、日焼け止めなど
マメ科の樹木から得られる樹脂.
基剤 ラノリンアルコール つや出し、化粧品、外用剤、日焼け止め、石鹸など
羊毛を刈り取ってウールに仕上げるときに羊毛についている皮脂分泌物から副産物としてえられるラノリンを加水分解して得る.
植物 ウルシオール 完全硬化すれば抗原性がなくなる.
カシューナッツの殻やマンゴーの皮にも認めるので食物アレルギーだけでなく,接触皮膚炎も鑑別に入れる必要がある.
イチョウ,銀杏と交叉反応を生じる.

部位別原因

手指・手掌 ニッケル,コバルト
上背部 クロム
腋窩 Fragrance mix
顔面・下腿 ペルーバルサム
下腿 ラノリン,ネオマイシン,caine mix

職業性皮膚炎

  • 職業性疾患においては,休業 4 日以上のものは,事業主が労働基準監督署への届け出
  • 60%がアレルギー性,34%が刺激性
  • 労災認定は業務起因性,そして業務中の作業によって発症したこと(業務遂行性)が明確であることが認定の必須要件

化粧品,毛染めによる接触皮膚炎

  • 化粧品の副作用の90%以上が刺激性皮膚炎
  • 刺激性皮膚炎の感受性は年齢とともに低下
  • アレルギー性接触皮膚炎は,全体の約 40%が顔,次いで 13~18%が眼瞼,11%が前腕,8%が腋窩
  • 化粧品皮膚炎の最も頻度の高い原料は香料で,原因の30%以上をしめる.次いで保存料.
  • 化粧品の原料別頻度としては,香料>保存料

医薬品による接触皮膚炎

抗菌薬外用

  • アミノグリコシド系抗菌薬がおおい.
  • フラジオマイシンが高率に感作を起こす.
  • ゲンタマイシン,アミカシン,カナマイシンなどの他のアミノグリコシド系と交叉.

抗真菌薬

  • イミダゾール系抗真菌薬の接触皮膚炎が増加.
  • ルリコナゾールとラノコナゾールの交叉が報告されている.
  • ラノコナゾール(アスタット)のOTCが販売されたので注意が必要.

消炎鎮痛剤外用薬

  • ケトプロフェンに代表されるアリルプロピオン酸系のNSAIDsは接触皮膚炎よりむしろ光接触皮膚炎を引き起こし易い

ステロイド外用薬

  • パッチテスト反応は,貼付試薬として用いたステロイド外用薬自体による抗炎症効果により抑えられ,反応が減弱ないし遷延化するため 72 時間判定だけでなく,96 時間後から 1 週間までの判定が重要.
  • トリアムシノロンタイプと,ヒドロコルチゾン-17ブチレンタイプの交叉が知られている.

点眼薬

  • 感作成立までの期間が一年以上に及ぶことがある.
  • アミノグリコシド系が多い.

消毒薬,潰瘍治療薬,乾癬治療薬

  • マーキュロムやチメロサールなどの水銀消毒薬は使用頻度が下がってきているものの注意が必要.
  • 高濃度ビタミンD製剤は反復開放塗布試験(ROAT)を行うことが推奨.

治療の推奨度と保険適応

  グレード 保険適応
ステロイド内服薬・外用薬は有効である A あり
免疫抑制薬の内服薬・外用薬は有効である C1 なし
抗ヒスタミン薬は有効である B あり
(慢性の手湿疹に対して)
紫外線療法は有効である
PUVA A なし
NB-UVB B なし
バリアクリーム手袋は予
防に有効である
刺激性皮膚炎 A  
接触皮膚炎 B or C1  

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