日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン 2017 年版を中心にまとめました.
疫学
米国ミネソタ州オルムステッド郡での調査によると,
- 年齢と性別を合わせた調査では 1 万人あたり 20.2 人(0.2%)
- 平均年齢は 33 歳
- 男女差なし
- 皮膚科外来を訪れる患者の 0.7 から 3.8% を AA が占める.
分類
臨床分類
通常型円形脱毛症 |
単発型 |
脱毛斑が単発のもの |
多発型 |
複数の脱毛斑を認めるもの |
全頭型円形脱毛症 |
脱毛巣が全頭部に拡大したもの |
汎発型円形脱毛症 |
脱毛が全身に拡大するもの |
蛇行型円形脱毛症 |
頭髪の生え際が帯状に脱毛するもの |
重症度分類
頭部全体の面積に占める 脱毛巣面積の割合(S) |
S0 |
脱毛がみられない |
S1 |
脱毛巣が頭部全体の 25%未満 |
S2 |
脱毛巣が 25~49% |
S3 |
脱毛巣が 50~74% |
S4 |
脱毛巣が 75~99% |
S5 |
100%(全頭)脱毛 |
頭部以外の脱毛の程度(B) |
B0 |
頭部以外の脱毛なし |
B1 |
頭部以外に部分的な脱毛がみられる |
B2 |
全身全ての脱毛 |
- ガイドラインでは,Bにはよらず頭部の脱毛巣が 25%以上を重症と定義.
病期分類
急性期 |
およそ半年まで |
- 牽引試験(pull test)陽性
- ダーモスコピー;感嘆符毛,漸減毛,黒点が多数見られる状況.
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固定期 |
半年以降 |
dystrophic anagen |
- 成長期毛の毛包周囲に炎症細胞浸潤が持続
- ダーモスコピーでも感嘆符毛,漸減毛,
黒点が観察される病勢の強い状態が続く.
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休止期に類似 |
- 毛包周囲の炎症細胞浸潤がかなり軽度
- ダーモスコピーでは黄色点が中心となる
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遺伝性
- 8.4%に家族内発症
- 1親等内に円形脱毛症の罹患者がいると, 一般に比べて10倍
- 一卵性双生児での円形脱毛症の一致率は 55%
合併症
- 橋本病に代表される甲状腺疾患
- 尋常性白斑
- SLE
- 関節リウマチ
- I 型糖尿病
- 重症筋無力症
- アトピー性皮膚炎
- ダウン症
予後
- 特に既往がなく,個々の脱毛斑が1年以内に治る場合,80%程度の患者で1年以内に毛髪が回復する.
- 15歳以下の脱毛型は回復率が悪い.
- 急速に進行するが,回復が早く短期的には予後の良好な病型もある.(acute diffuse and total alopecia of female scalp(ADTAFS)?)
17 年間にわたり経過を観察した報告 |
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回復率 |
脱毛面積 -25% |
68% |
脱毛面積 25-50% |
32% |
脱毛面積 50%- |
8% |
治療法
ステロイド局所注射療法* |
B |
- S1 以下の限局した脱毛巣を有する成人症例に推奨
- 萎縮や疼痛,血管拡張に注意
- トリアムシノロンアセトニド(ケナコルト A 水懸注
皮内用Ⓡ:10 mg/ml))を生理食塩水or塩酸プロカイン,キシロカインで 2~10 mg/ml に希釈.
- 1 回の診療において総投与量 10 mg を限度とする.
- 1カ所につき50 μlを5 mm間隔で真皮下層レベルか皮下脂肪レベルに局所注射をする.
- 投与間隔は 4~6 週に 1 回.
- 局所注射部位はステロイドによる皮膚の委縮を防ぐため,局所注射後によく揉む.
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局所免疫療法 |
- S2以上の多発型,全頭型,汎発型の症例に,年齢を問わず第一選択肢.
- 脱毛部に 1~2% SADBE あるいは DPCP を外用して感作させる.
- 7~10 日に感作部位に紅斑や瘙痒が出現する.
- 感作が成立後,脱毛部に低濃度の SADBE や DPCP を綿棒や筆で 1~2 週間に 1度外用する.
- 洗髪は外用の 10~12 時間後に行う.
- 初回濃度は 1×10-4% 程度から開始.
- 原則としてステロイド外用との併用は行わない.
- 発毛が認められてからも 3~4 週に 1 度,外用を継続する.
- 重度の接触皮膚炎,自家感作性皮膚炎,蕁麻疹,リンパ節腫脹等が生じた場合は局所免疫療法を中止し,抗ヒスタミン薬の内服やステロイド軟膏の外用を行う.
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ステロイド外用療法 |
- 単発型から融合傾向のない多発型の円形脱毛症に対しては,1 日 1~2 回の strong,very strong,strongest クラスのステロイド外用療法を行うよう勧める.
- ざ瘡や毛包炎に注意,長期使用により皮膚の萎縮,血管拡張,陥凹をきたすことがあるので漫然と使用すべきでない.
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かつらの使用 |
- 多発型・全頭型・汎発型円形脱毛症に対して使用するよう勧める.
- かつらを使用することは,病勢に対して悪影響はないが,紫外線や外傷防御の点で推奨される.
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ステロイド内服療法* |
C1 |
- 発症後 6 カ月以内で,急速に進行している S2 以上の成人症例に使用期間を限定して行ってもよい.
- 副作用を最小限とする観点から,初期量プレドニゾロン 0.5 mg/体重 kg,総投与期間 3 カ月以内を推奨
- 初期量の投与期間は最長 1 カ月間とし,この時点で脱毛の停止あるいは発毛が認められなくても減量を開始する.
- 減量は原則として10 mg/日までは 5 mg/週,それ以下では 2.5 mg/週で行い,総投与期間を 3 カ月以内となるよう計画する.
- 中止後に再発した場合も本療法の適応はなく,他治療法(局所免疫療法など)を試みる.
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ステロイドパルス療法* |
- 発症後 6 カ月以内で,急速に進行している S2 以上の成人症例に行ってもよい.
- 治療前にスクリーニング検査として,血液検査(末梢血,一般生化学,CRP,甲状腺機能,膠原病自己抗体,肝炎ウイルスなど感染症),尿検査,胸部 X 線撮影,心電図検査を行
う.
- 特に肝炎ウイルス,陳旧性結核を含めた感染症と
糖尿病について問診および検査にて否定しておく.
- 成人に対しメチルプレドニゾロン 500 mg/日の点滴静脈内投与を連続 3日間で 1 回行う.
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抗ヒスタミン薬 |
- 第 2 世代抗ヒスタミン薬内服の発毛効果に関してはある程度の根拠がある.
- 背景にアトピー素因を持つ単発型および多発型の症例に,併用療法の一つとして推奨する.
- 円形脱毛症への保険適応はない
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セファランチン |
- 単発型および多発型の症例に併用療法の一つとして行ってもよい.
- 保険適応あり
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グリチルリチン,グリシン,メチオニン配合錠 |
カルプロニウム塩化物外用療法 |
ミノキシジル外用療法 |
- 単発型および多発型の症例に併用療法の一つとして行ってもよい.
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冷却療法 |
紫外線療法*
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- 症状固定期の全頭型や汎発型の成人例に対して PUVA 療法を行ってもよい.
- すべての病型の患者に対してエキシマライトまたは narrow-band UVB 療法を行ってもよい.
- 治療開始時には,原則的に MED を測定し,50%~70% MED から照射を開始する.その後,淡い紅斑が認められるまで 50mJ/cm2 ずつ照射量を増量していく.
- エキシマライト使用案(3.汎発性円形脱毛症に対するエキシマライト療法)
- 頭部への初回照射量は100mJ/cm2
- 増量は基本的に固定幅50~100 m/Jずつ
- 照射間隔は週に1回
- 最大照射量は600 mJ/cm2
- 効果発現にかかる時間としては,
- 硬毛の発毛開始までに単発・多発型では週1回の照射にて平均8回
- 汎発性では2週間に1回の照射にて平均15.5回
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直線偏光近赤外線照射療法 |
- 直線偏光近赤外線照射療法(スーパーライザーⓇ)は単発型および多発型の症例に併用療法の一つとして行ってもよい
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無治療 |
- 患者に対し心理的な配慮を行いつつ,治療せずに経過観察するという選択肢を患者へ提示してもよい.
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レーザー治療,PDT |
C2 |
- レーザー治療(light emitting diode(LED),低出力レーザー)およびphotodynamic therapy(PDT)は根拠なし
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シクロスポリン A 内服療法 |
- CyA の内服により脱毛症状が改善することが示唆される論文もあるが,副作用の観点からも行わないほうがよい.
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分子標的薬の全身投与 |
- 分子標的薬は多種多様であり,JAK阻害薬など将来的に期待される薬剤もあるが,実臨床で使用されてまだ日も浅く,症例も限られることから有効性について評価できる段階にない.従って現時点では行わないほうがよい.
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漢方薬療法 |
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抗うつ薬,抗不安薬 |
タクロリムス外用療法 |
プロスタグランジン製剤外用療法 |
ビタミン D 外用療法 |
レチノイド外用療法 |
催眠療法 |
- 行わないほうがよい
- 催眠療法を実施すると,実施前と比較して QOL が向上し,抑
うつと怒りの感情の明らかな改善が示されたとのことから英国皮膚科学会のガイドラインでは行ってもよいとされた.
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心理療法 |
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星状神経節ブロック療法 |
- 星状神経節ブロックにより,実施前と比較して脱毛範囲が縮小したことを示唆する弱い根拠が見いだされているが,本法の施行には手技に熟達した他科医師の助力を必要とすること,星状神経節ブロックの AA に対する有用性が,危険性を上回る根拠に乏しいと考えられることから,行わないほうがよい.
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Platelet rich plasma 療法 |
- 限定的ではあるものの PRP 療法の発毛促進効果を示唆するエビデンスが存在する.
- しかし,評価対象となる症例数は少なく,かつ「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」などの法規に則ってのみ施術可能であり,保険診療外の治療なので,現時点では行わないほうがよい.
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アロマテラピー |
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鍼灸治療 |
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