皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン第 3 版 皮膚血管肉腫診療ガイドライン2021 を中心にまとめました.
疫学
- 肉腫の2-3%.
- 血管肉腫の部位別発生頻度
皮膚(49.6%)>乳房実質(14.4%)>軟部組織(11.2%)>心臓(6.7%)>骨(4.1%)
皮膚の割合は増加している. - 皮膚血管肉腫の50~60%が頭頚部発症
男:女=2:1 - 日本では100万にあたり2.5人程度
分類
頭部および顔面に発症する血管肉腫 |
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慢性リンパ浮腫に続発する血管肉腫 |
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放射線照射後血管肉腫 |
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危険因子
発症危険因子 | 高齢男性 紫外線曝露 リンパ浮腫(リンパ節郭清術後,放射線治療後,Milory 症候群,フィラリアなどの慢性感染症,肥満,など) 放射線治療後 腎移植後やHIV感染などの免疫抑制 遺伝性疾患(神経線維腫症1型,Maffucci症候群,Klippel-Trenaunay 症候群,色素性乾皮症,など) 動静脈瘻やシャントによる血流異常,など |
予後不良因子 | 70 歳以上 壊死 腫瘍サイズ,腫瘍深達度 類上皮様の形態など |
予後良好因子 | 手術施行例 集学的治療 術後放射線療法など |
臨床所見
- 浸潤や隆起のない境界不明瞭な紅斑,出血斑,紫斑として始まることが多い
- 進行すると局面や結節を形成し,しばしば易出血性となって壊死性痂皮や潰瘍を伴うようになる.
- 日本では欧米からの報告と比べて初診時に既に大型の病変を形成していることが多い
- 5 cm を超える病変では予後が悪くなる
- 発症後比較的早期からリンパ行性および血行性に転移を来す
- 血行性転移では肺,肝,骨などの頻度が高い.
- 病理は,不規則に拡張・吻合する血管腔の増加と異型・多形な内皮細胞の増殖.高分化な部では一層の血管内皮で裏打ちされる拡張した脈管増生が主体で,膠原線維間での裂隙様の脈管増生,核が濃染し内腔に突出する内皮細胞,核分裂像,赤血球の血管外漏出などが手がかりとなる.
- CD31,34,FLI-1,ERGなどの血管内皮マーカー,D2-40,Prox-1,VEGFR-3などのリンパ管内皮マーカが陽性となる.
- 放射線治療後およびリンパ浮腫関連の二次性血管肉腫では MYC が陽性となることが知られており,放射線照射後の異型血管病変(atypical vascular lesion)との鑑別上有用である.
分子生物学的異常
- PTPRB, PLCG1,NUP160-SLC43A3 融合遺伝子の関連が示唆.
- MAPK 経路の関与が推測されている.
- 乳癌に対する放射線照射後や慢性リンパ浮腫に生じた二次性血管肉腫ではc-mycの増幅が全例に認められたとの報告がある.
画像診断
- 肺転移病変は多発性の充実性結節として描出されることが多く,薄壁囊胞がそれに次ぐ.
- 出血性となると薄壁囊胞内の鏡面形や血気胸の像を呈するが,結節・囊胞周囲にびまん性浸潤影やすりガラス状陰影を呈して間質性肺炎との鑑別が難しくなることもある.
手術療法
- 1 cm 以上の切除マージンが必要
- 深部マージンは,腫瘍境界が深筋膜に達していなければ深筋膜を含めて切除するのが一般的.
- 腫瘍が深筋膜に直接浸潤していれば,根治切除にはその下床にある組織,頭部であれば骨膜あるいは頭蓋骨外板などの切除が必要となる.
- 切除後の局所再発は 26~100%と幅はあるものの高率.
- 広範切除した場合は,局所再発予防目的に術後放射線をすることが一般的.
- 大型の病変では姑息的に減量目的の手術を行って放射線療法を早期に併用することも勧められている.
- 大多数が原発巣およびリンパ節の治療をしている間あるいは治療終了後間もなくに血行性転移を生じる.リンパ節転移病変に対する外科的治療の選択は慎重になるべき
- 遠隔転移を生じた場合の予後は極めて悪く,その平均生存期間は 6~8 カ月程度.
- 遠隔転移病変に対する外科的治療は一般的に適応なし.
放射線療法
- 70Gyを目標とする.
- 腫瘍量の減量を目的とした局所切除を一期的に実施し早期に術後放射線治療を併用することが望ましい.
- 皮膚障害の程度は薬剤投与量に比例するため,タキサン系抗癌剤による CRT 実施の際は放射線皮膚炎を極力抑え,回復を早めるために抗癌剤の減量または抗癌剤一時休止を検討するほうがよいと考えられる
- 所属リンパ節転移に対する放射線照射は治療選択肢の一つとなりうる
- 血管肉腫に対する緩和的放射線照射では,総線量を減量するのではなく眼,耳などの感覚器に近い病変部の照射野マージンを譲歩し,化学療法を併用しない単独局所治療であれば,総線量は50 Gy 以上を目標としたほうが良い.
化学療法
- パクリタキセル(PTX)が第一選択
パクリタキセル(PTX)
- タキサン系抗がん剤の一種であり,細胞骨格を構成する微小管に結合して重合促進,安定化させることで細胞分裂を阻害し抗腫瘍効果を示す.
- 本邦では,抗がん剤として血管肉腫に対して唯一保険適応
- 用量依存性に血液毒性が生じうるが,低用量の継続化学療法においては主に軽度の末梢神経障害と下肢浮腫などがみられる程度であり,忍容性が高い薬剤であるが,アナフィラキシーには注意.
ドセタキセル(Docetaxel:DTX)
- タキサン系抗がん剤
- PTX に比べて 10倍以上の血管新生抑制効果がある
- 頭頸部癌に保険適応
- 第2選択以降.
ドキソルビシン塩酸塩(Doxorubicin:DXR)
- アントラサイクリン系抗がん剤
- 悪性骨軟部腫瘍に対してアルキル化剤のイホスファミドとの併用で本邦では保険適用がある
- ADM による心機能低下,心不全,心筋症は累積投与依存性に発現頻度が上昇
- 総投与量は500 mg/m2 を超えてはならない
ゲムシタビン(Gemcitabine:GEM),MAID 療法,GD 療法
保険適応外
免疫療法
インターロイキン-2
- T 細胞増殖因子であり IL-2 レセプターを介して T 細胞,NK 細胞の増殖・活性化やリンホカイン活性化キラー細胞(LAK 細胞)を誘導するサイトカイン
- 血管内皮細胞障害性がある.
- 1992 年 3 月に血管肉腫への保険適用
- 遠隔転移のない初期病変であれば,結節部切除と病変部へのIL-2 局注・点滴静注も治療選択肢のひとつとなりえる.
Lymphocyte Activated Killer(LAK)療法
- LAK細胞を用いた養子免疫療法とは,患者末梢血分離リンパ球を IL-2 で誘導し,大量培養された LAK 細胞を IL-2 とともに病変部へ投与する方法
- 費用や実施可能施設の制限で実施が困難.
新規治療薬
エリブリン(ハラヴェン®)
- クロイソカイメンから抽出されたハリコンドリン系の微小管ダイナミクス阻害剤
- 2016/2に軟部肉腫に保険適応.
- 骨髄抑制に注意.
トラベクテジン(ヨンデリス ® )
- アルカロイド化合物であり,腫瘍細胞 DNA 修復抑制や転写因子の機能阻害,アポトーシスの誘導などにより抗腫瘍作用を示す.
- 2015/11に軟部肉腫に保険適応.
パゾパニブ(ヴォトリエント ® )
- 2012/6に悪性軟部肉腫に保険適応.
- キナーゼ阻害薬
免疫チェック阻害薬
適応なし.
緩和
Mohs ペースト・フェノール腐食
- 塩化亜鉛を主成分とし,亜鉛イオンが腫瘍細胞や血管のタンパク変性と脱水作用により塗布部位の腫瘍を固定化,乾燥させることによって出血や滲出を改善させることができる
胸膜癒着
- 薄壁空洞と結節の混在や,急速進行例では結節の中心が壊死し空洞化することもあるため,肺転移例では気胸の発生には常に注意が必要
- 最近では悪性胸水に対して適応のあるタルク(ユニタルクⓇ)の使用頻度が増えた.
皮膚血管肉腫診療ガイドライン クリニカルクエスチョン(CQ)と推奨
CQ1:遠隔転移の無い皮膚血管肉腫に対して広汎切除及び術後放射線よりも化学放射線治療の方が勧められるか? | 原発巣が大きい遠隔転移の無い皮膚血管肉腫に対して,化学放射線治療を弱く推奨する. | 2D |
CQ2:遠隔転移の無い皮膚血管肉腫に対して広汎切除及び術後放射線よりもインターロイキン 2 による免疫療法が勧められるか? | 遠隔転移が無くても皮膚血管肉腫に対してインターロイキン 2 投与を単独では行わないことを提案する.症例により術後補助療法として検討 | 3C |
CQ3:遠隔転移の無い皮膚血管肉腫に対して初期治療後に無治療経過観察より再発予防目的の化学療法は勧められるか ? | 遠隔転移の無い皮膚血管肉腫の初期治療後には,無治療経過観察よりも再発予防目的の化学療法を行うことを弱く推奨する. | 2D |
CQ4:パクリタキセル抵抗例のセカンドライン治療としてドセタキセルより新規治療薬(エリブリン,パゾパニブ,トラベクテジン)が勧められるか? | パクリタキセル抵抗例のセカンドライン治療としてドセタキセルより新規治療薬を勧めるかどうかについて,介入しないことを弱く推奨する. | 3D |
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