亜鉛欠乏症

皮膚科専門医試験対策

亜鉛欠乏症の診療指針 2018から重要な部分を抜粋しました.

亜鉛欠乏症診断基準

下記の症状/検査所見のうち1項目以上を満たす

  1. 臨床症状・所見 皮膚炎,口内炎,脱毛症,褥瘡(難治性),食欲低下,発育障害(小児で体重増加不良,低身長),性腺機能不全,易感染性,味覚障害,貧血,不妊症
  2. 検査所見  血清アルカリホスファターゼ(ALP)低値
上記症状の原因となる他の疾患が否定される

血清亜鉛値(血清亜鉛は,早朝空腹時に測定することが望ましい)

  1. 60µg/dL未満:亜鉛欠乏症
  2. 60 ~ 80µg/dL未満:潜在性亜鉛欠乏
亜鉛を補充することにより症状が改善する
Definite(確定診断):
上記項目の1.2.3-1.4をすべて満たす場合を亜鉛欠乏症と診断する.
上記項目の1.2.3-2,4をすべて満たす場合を潜在性亜鉛欠乏症と診断する.
Probable:
亜鉛補充前に1.2.3.をみたすもの.亜鉛補充の適応になる.

血清亜鉛値の測定時の注意

  • 午前から午後にかけて徐々に低下.
  • 手術などのストレスでも低下.
  • 空腹で上昇,食後2-3時間後に約20%低下.
  • 溶血すると高値になる.(血液中の亜鉛は,約80%は赤血球,約20%は血清中,約3%が血小板と白血球に存在するため.)
  • 室温で全血を放置すると,赤血球から放出され,約2時間後には20%程度上昇
  • 通常採血のゴム栓は亜鉛を含むため,専用の採血管が必要

亜鉛の測定は早朝空腹時に行うことがのぞましい.

亜鉛欠乏をきたす要因

摂取不足  低亜鉛母乳栄養(乳児期早期に発症)
 低亜鉛食:動物性蛋白の少ない食事(菜食主義者)
 静脈栄養で亜鉛補充が不十分
 低栄養
 高齢者
吸収不全 先天性腸性肢端皮膚炎(乳児期早期に発症)
慢性肝障害(慢性肝炎,肝硬変),炎症性腸疾患,短腸症候群
フィチン酸・食物繊維の摂取過剰(亜鉛吸収を阻害する)
需要増大 低出生体重児で母乳栄養(乳児期の体重増加が著しい時期に発症)
妊娠味覚障害味覚障害
排泄増加 キレート作用のある薬剤の長期服用,糖尿病,腎疾患,溶血性貧血,血液透析
その他 スポーツ

亜鉛欠乏の治療指針

  • 成人50 ~ 100mg/日を分2で食後に経口投与する.
  • 小児1 ~ 3mg/kg/日または体重20kg未満で25mg/日,体重20kg以上で50mg/日を分2で食後に経口投与する.
  • 慢性肝疾患,糖尿病,慢性炎症性腸疾患,腎不全では,しばしば血清亜鉛値が低値である.血清亜鉛値が低い場合,亜鉛投与により基礎疾患の所見・症状が改善することがある.したがって,これら疾患では,亜鉛欠乏症状が認められなくても,亜鉛補充を考慮してもよい.

亜鉛投与による有害事象

  • 消化器症状(嘔気,腹痛),血清膵酵素(アミラーゼ,リパーゼ)上昇,銅欠乏による貧血・白血球減少,鉄欠乏性貧血が報告されている.
  • 血清膵酵素上昇は特に問題がなく,経過観察でよい.
  • 亜鉛投与中は,定期的(数か月に1回程度)に血清亜鉛,銅,鉄を測定する.
    血清亜鉛値が250µg/dL以上になれば,減量する.
    銅欠乏や鉄欠乏が見られた場合は,亜鉛投与量の減量や中止,または銅や鉄の補充を行う.

亜鉛の代謝

  • 亜鉛の排泄経路は膵液中への分泌を介する糞便中への排泄が主であり,尿中への排泄は極めて少ない.
  • その他,汗への排泄経路がある.
  • 亜鉛は生体内に広く分布し,60%が筋肉,20 ~30%が骨,8%が皮膚・毛髪,4 ~ 6%が肝臓,2.8%が消化管・膵臓,1.6%が脾臓に,その他,腎臓,脳,血液,前立腺,眼などの臓器にも多く存在する.

亜鉛の吸収

  • 十二指腸,空腸で吸収される.特に遠位十二指腸と近位空腸で最大の吸収が認められる.
  • 胃ではほとんど吸収されない.
吸収阻害 種子,米ぬかや小麦などの穀類,豆類などの植物由来の食品に多く含まれるフィチン酸,カルシウム,乳製品(食品に含まれるカルシウム),食物繊維,コーヒー(タンニンを含む),オレンジジュース,アルコールなど
吸収促進 肉類,魚類に多く含まれる動物性蛋白質(ヒスチジン,グルタミンなどのアミノ酸),クエン酸,ビタミンCなど

亜鉛の推奨摂取量

成人男性で10mg/日

成人女性で8mg/日(妊婦,授乳婦ではそれぞれ2mg/日,3mg/日が負荷量)

「日本人の食事摂取基準(2015 年版)」

亜鉛欠乏の病態

皮膚炎・脱毛
  • 病理:表皮内水疱,表皮内・角層の空胞変性などが見られ,進行すると乾癬様となる.
  • ATP由来炎症を抑制する作用のある表皮ランゲルハンス細胞が亜鉛欠乏で減少し,その結果,ATP分泌過多が生じ,皮膚炎を発症すると言われる.
貧血
  • 赤芽球の分化,増殖にzinc finger proteinであるGATA-1が不可欠で,亜鉛欠乏により赤芽球の分化・増殖が障害され,貧血を生じる.
  • 赤血球数が減少し,正球性または小球性貧血で,血清総鉄結合能(TIBC)は低下している.鉄欠乏を合併している場合は小球性になる.
  • スポーツ競技者や透析患者では,亜鉛欠乏性溶血により高頻度に貧血になる.亜鉛欠乏により赤血球膜の抵抗性が減弱し,強度の機械的刺激(激しい運動,透析など)で溶血するとの機序が推定されている.
  • 実業団の男子陸上競技者の約15%,女子の約30%に亜鉛欠乏に伴う非定
    型的鉄欠乏性貧血が見られると報告されている.
味覚障害
  • 亜鉛欠乏で乳頭の扁平化,味細胞先端の微絨毛の消失,味細胞の空胞化などが観測される.
発育障害
  • 小児では,亜鉛欠乏で成長障害,すなわち低身長症になる.
  • 成長ホルモン分泌・肝での成長ホルモン受容体減少・IGF-1産生低下・テストステロン産生低下などが考えられている.
性腺機能不全
  • 特に男性の性腺の発達障害や機能不全が生じる.
  • 亜鉛欠乏でテストステロンの合成・分泌が低下する.
  • 精液中の亜鉛濃度と男性の不妊症とには負の相関が認められる.
  • 亜鉛欠乏による精子形成障害の原因として酸化ストレスおよびアポトーシスの増加によるテストステロン産生の減少が示唆されている.
食欲低下
  • 消化管粘膜が萎縮し,消化液の分泌減少や消化管運動が低下する.
下痢
  • 腸粘膜の萎縮による消化吸収障害によると考えられている.
  • さらに,亜鉛欠乏は腸管でのイオン輸送や腸透過性にも影響を及ぼ
    し,下痢を誘発する.
骨粗しょう症
  • 骨代謝に関与する亜鉛酵素であるアルカリホスファターゼ,insulin-like growth factor-1(IGF-1),transforming growth factor-β(TGF-β)などの成長因子の合成・分泌が低下している.
  • 亜鉛欠乏では骨形成の低下が認められる.
創傷治癒遅延
  • 亜鉛はDNAおよびRNAポリメラーゼ,転写因子やリボソームなどの機能に不可欠であり,核酸やタンパク合成に必須であり,さらに抗酸化作用を有する
  • 上記から創傷治癒において,亜鉛欠乏状態では炎症の遷延化や線維芽細胞の機能低下により創傷治癒の遅延が見られる.
易感染性
  • Th1およびTh2機能のインバランスを引き起こす.IFN-γ,IL-2の産生が減少する.

腸性肢端皮膚炎

亜鉛の吸収障害と,母乳の亜鉛含有量低下による亜鉛不足とで,2種類に分かれる.

先天性腸性肢端皮膚炎

  • ZIP4をコードするSLC39A4遺伝子異常
  • 腸管での亜鉛の吸収が障害され,亜鉛欠乏になる.
  • 常染色体劣性遺伝
  • 3大徴候は,皮膚炎脱毛下痢
  • 多量の亜鉛の経口投与で症状は改善する.

二次性腸性肢端皮膚炎

  • 母親の乳腺に発現する亜鉛トランスポーターZnT2(SLC30A)遺伝子異常
  • ヘテロ接合体でも発症が認められる.
  • 低亜鉛濃度母乳を授乳することにより乳児が亜鉛欠乏になり,先天性腸性肢端皮膚炎と同様の症状を示す.

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