神経皮膚症候群

皮膚科専門医試験対策

神経線維腫症1型 neurofibromatosis typeI,NFII

  • あた391
  • 出生約 3,000 人に 1 人の割合で生じる.
  • 罹患率に人種による差はない
  • NF1 は常染色体優性の遺伝性疾患であるが,患者の半数以上は弧発例である.
  • NF 1 は RAS mitogen activated protein kinase(MAPK)経路を負に制御しており,この経路に関わるいわゆる RASopathiesと呼ばれる疾患群は症状がオーバーラップする.

診断基準

1.主な症候
(1)カフェ・オ・レ斑
扁平で盛り上がりのない斑であり,色は淡いミルクコーヒー色から濃い褐色に至るまで様々で,色素斑内に色の濃淡はみられない.形は長円形のものが多く,丸みを帯びた滑らかな輪郭を呈している.
(2)神経線維腫
皮膚の神経線維腫は思春期頃より全身に多発する.この他末梢神経内の神経線維腫(nodular plexiform neurofibroma),び漫性の神経線維腫(diffuse plexiform neurofibroma)がみられることもある.
2.その他の症候

①   皮膚病変−雀卵斑様色素斑,大型の褐色斑,貧血母斑(あた390),若年性黄色肉芽腫(あた437),有毛性褐青色斑など。
②   骨病変−頭蓋骨・顔面骨の骨欠損,四肢骨の変形・骨折、脊柱・胸郭の変形など.
③   眼病変−虹彩小結節(Lisch nodule)、視神経膠腫など.
④   脳脊髄腫瘍−神経膠腫、脳神経及び脊髄神経の神経線維腫など.
⑤   Unidentified bright object(UBO);脳MRIで認められる小脳,脳幹部,基底核などに T2 強調画像で高信号病変
⑥   消化管間質腫瘍
⑦   褐色細胞腫
⑧   悪性末梢神経鞘腫瘍
⑨   学習障害・注意欠陥多動症

3.診断のカテゴリー
カフェ・オ・レ斑と神経線維腫がみられれば診断は確実である.小児例(pretumorous stage)ではカフェ・オ・レ斑が6個以上あれば本症が疑われ,家族歴その他の症候を参考にして診断する.ただし、両親ともに正常のことも多い.成人例ではカフェ・オ・レ斑が分かりにくいことも多いので、神経線維腫を主体に診断する。

貧血母斑(あた390)

  • 入浴や摩擦などで周囲の皮膚が紅潮した際に,境界鮮明に蒼白部位が出現
  • 上胸部に好発
  • 毛細血管の機能障害(カテコラミン過敏症)
  • NF1や結節硬化症に合併

若年性黄色肉芽腫(あた437)

  • 組織球系腫瘍.
  • 黄色~暗色調で表面平滑な数mm~1cm大の丘疹および結節.顔面,四肢,体幹に多発.
  • 生下時~生後数ヶ月以内に単発or多発し,通常は5-6歳までに自然消退する.
  • 病理では,組織球と黄色腫細胞,Touton型巨細胞(脂肪を貪食した組織球.多核巨細胞の核が花環状に配列し,その内側は好酸性で、核の外側は泡沫状の明るい細胞質が取り囲む.)からなる反応性肉芽腫.
  • NF1合併例では白血病に注意.

神経線維腫症2型 neurofibromatosis typeII,NFII

  • 4万人に1人の割合で発生する常染色体優性遺伝
  • NF1に比べて予後が悪い.
  • 神経鞘腫

診断基準

1.診断のカテゴリー
MRI又はCTで両側聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)が見つかれば神経線維腫症II型と診断する。また、親・子ども・兄弟姉妹のいずれかが神経線維腫症II型のときには、本人に①片側性の聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)、又は②神経鞘腫・髄膜腫・神経膠腫・若年性白内障のうちいずれか2種類が存在すれば診断が確定する。
2.検査所見
造影MRI、聴力検査、眼科的検査が必要で、特に造影MRIと聴力検査は毎年1~2回定期的に行う必要がある。
頭部造影MRIでは、前庭神経鞘腫・三叉神経鞘腫を始めとする各脳神経鞘腫、髄膜腫、脳室内髄膜腫や眼窩内腫瘍もみられる。また、脊髄造影MRIでは、多発する脊髄神経鞘腫と髄内腫瘍(多くは上衣腫)がみられる。これらの腫瘍は、成長せずに長期間同じ大きさでとどまることもあるが、増大することもあり、成長の予測は困難である。
聴力検査としては、純音聴力検査、語音聴力検査、聴性脳幹反応検査を行う。聴力レベルと前庭神経鞘腫の大きさは必ずしも相関せず、聴力レベルが長期間不変のことや急に悪化することもある。眼科的には白内障検査と視力検査を行う。若年性白内障(posterior subcapsular lenticular cataract)は外国では80%と高率に報告されている。

結節性硬化症 Bourneville-Pringle病

  • あた394
  • 顔面の多発血管線維腫,精神遅滞,てんかんの3徴
  • TSC1TSC2遺伝子変異の常染色体優性遺伝.2/3が孤発例.
  • 真珠様陰茎小丘疹,鼻部線維性丘疹でも血管線維腫をきたす(H30-65
  • 乳児期に脱色素性母斑の葉状白斑
  • 幼児期以降の鼻周囲の血管線維腫(多発性内分泌腫瘍1型で同様の皮疹)
  • 粒起革様皮膚(結合組織母斑)
  • 爪囲線維腫(被角線維腫,Koenen腫瘍)成人の約90%.
  • mTOR阻害薬であるラパマイシン(ラパリムスゲル)が有効.
  • 肺のリンパ脈管筋症,腎の血管筋脂肪腫,心の横紋筋腫に注意.

Peutz-Jeghers症候群

  • あた397
  • STK11遺伝子変異による常染色体優性遺伝
  • 口唇・口腔粘膜,四肢末端の色素斑,消化管ポリポージスを特徴とする.
  • 消化管ポリープによる腸重積や癌に注意.
  • 基底層でメラニンおよびメラノサイトの増生を認める.
  • Cronkhite-Canada症候群(H26-59)は脱毛,爪異常を認め,病理でメラノサイトの増殖を認めない.

消化管ポリポーシスに随伴する皮膚症状

Peutz-Jeghers症候群 AD STK11 口唇,口腔粘膜,手掌の色素斑
Cronkhite-Canada症候群   脱毛,爪甲異常,手背の色素斑(H26-59)
Gardner症候群 AD APC 多発性表皮嚢腫,線維腫,骨腫,歯牙形成異常
Turcot症候群 AR APC カフェオレ斑,多発性脂肪腫
Cowden症候群 AD PTEN 顔面・四肢の角化性丘疹,口腔粘膜の乳頭腫

色素失調症  Bloch-Sulzberger症候群

  • あた398
  • 生下時から生じる紅斑,水疱→丘疹→色素沈着→消退という特徴的な経過をたどる.
  • NEMO(NF-κB essential modulator)遺伝子変異によるX連鎖性優性遺伝で女児に多い.
  • 大部分の男性児は胎内死亡.
  • 予後はよい
  • 眼病変が約30%で片側に生じる.斜視,白内障,視神経萎縮,網膜剥離,失明.
  • 中枢神経症状として,てんかん,精神発達遅延,小頭症,水頭症など
  • 歯牙形成不全,骨格異常(多指症)など
水疱期 疣状期 色素沈着期 色素消退期
  • 生下時~2週間に水疱が生じ数日から数ヶ月で治癒
  • 好酸球浸潤
  • 6ヶ月以内に消失することが多い.
  • 成人まで持続することも
  • 疣贅状表皮母斑に類似
  •  6ヶ月から目立つ
  • 渦巻状,マーブルケーキ状
  • 真皮メラノファージ増(組織学的色素失調)
  • 思春期までに消失
  • メラノファージの減少

Sturge-Weber 症候群

  • あた400
  • 面の毛細血管奇形眼病変脳神経症状を古典的3徴候とする.
  • 一般に遺伝性はないと言われ5万人に一人程度の有病率.
  • 多くは顔面病変と脳神経病変のみを認める不完全型.
  • 皮膚;生下時からみられる,三叉神経第1,2枝領域の単純性血管腫(ポートワイン母斑).95%以上で皮膚病変がある.
  • 神経;約80%の症例で小児期からてんかん発作.顔面病変が存在する側の後頭葉の軟髄膜血管腫を有する.(Xpで脳回に沿った二重輪郭の石灰化像;tram-line calcification)
  • 眼;眼脈絡膜の血管奇形で緑内障や角膜径の拡大(牛眼)を認める.幼児期に生じることが多いが,生下時~成人に生じることもある.

Klippel-Trenaunay-Weber症候群

  • あた401
  • 血管新生に関わるPIK3CA遺伝子変異の体細胞変異が一部の症例で示されている.
  • リンパ管奇形,静脈奇形(海綿状血管腫,静脈瘤)を生じる.
  • 皮膚の片側性の単純性血管腫をきたす
  • 脚長差による側彎や動静脈瘻による皮膚潰瘍,心不全などが問題となる.

神経皮膚黒色症 neurocutaneous melanosis

  • あた402
  • 皮膚および中枢神経系に色素細胞が増殖する非遺伝性の稀な母斑症
  • 巨大先天性色素性母斑を生じる.
  • 脳圧亢進症状と二次性の水頭症を認める.
  • 巨大先天性色素性母斑や脳軟膜病変から悪性黒色腫を生じることが多い.

RASopathies RAS/MAPK症候群

  • あた402
  • 常染色体優性遺伝
  • 眼間開離や眼瞼下垂などの特徴的な顔貌,翼状頚,肺動脈狭窄,精神遅滞などを特徴とする.
  • RAS/MAPK経路に関わる遺伝子異常による.
  • NF1との鑑別が重要.
Legius 症候群 SPRED1 カフェ・オ・レ斑
雀卵斑様色素斑
大頭症
Noonan症候群様顔貌
LEOPARD 症候群 PTPN11
RAF1
BRAF
多発性黒子
心電図異常
両眼隔離
肺動脈狭窄
性器異常
発育異常
難聴
カフェ・オ・レ斑
Noonan 症候群 PTPN11
SOS1
RAF1
KRAS
NRAS
BRAF
(SHOC2,CBL)
特異な顔貌
心疾患
骨格の異常(低身長)
停留精巣
出血傾向
カフェ・オ・レ斑
(毛髪の異常)
Cardio-Facio-Cutaneous 症候群 BRAF
MEK1
MEK2
KRAS
特異な顔貌
心疾患
毛髪の異常
眉毛瘢痕性紅斑
過角化
色素性母斑
カフェ・オ・レ斑
Costello 症候群 HRAS
KRAS?
特異な顔貌
心疾患
精神発育遅滞
悪性腫瘍の合併
乳頭腫
毛髪の異常
過角化
カフェ・オ・レ斑

母斑性基底細胞癌症候群 Gorlin症候群

  • あた403 R1-81
  • PTCH1遺伝子による常染色体優性遺伝.
  • 掌蹠小陥凹が幼児期から生じ,次第に増加する.
  • 多発基底細胞癌が特徴
  • 両眼間隔離、両眼隔離症、二分肋骨、中枢神経病異
  • 表皮嚢腫や稗粒腫,多発顎骨嚢腫

色素血管母斑症

  • あた403
  • 皮膚の毛細血管奇形と表皮系・メラノサイト系母斑が合併して一部で重なりあう.
  • Sturge-Weber症候群やKippel-Trenaunary-Weber症候群に合併することがある.
  • Ⅱbが最多で60%
I
疣贅状表皮母斑,疣贅状母斑細胞性母斑 青色斑 扁平母斑(点状集簇性母斑) 青色斑+扁平母斑
a型;皮膚病変のみ
b型;筋骨格系や眼病変など皮膚外病変を有する

Osler-Rendu-Weber 症候群(遺伝性出血性毛細血管拡張症)

  • あた404
  • 血管新生に関与するTGF-β受容体遺伝子(ENG,ACVRL1)の変異による.
  • 常染色体優性遺伝.
  • 全身の動静脈吻合部で血管拡張を生じる.
  • 幼少期~思春期以降に上半身に紅色小丘疹や毛細血管拡張が多発.
  • 反復性鼻出血が初期症状として重要
  • 肺動静脈瘻の破綻による喀血,血胸,消化管出血,肝硬変などを生じる.

青色ゴム乳首様母斑症候群

  • あた404
  • 静脈奇形(海綿状血管腫)が皮膚や消化管を主に多臓器に生じる
  • 常染色体優性遺伝
  • 境界不明瞭な青色斑や,暗褐色で弾力性に富むゴムまり様の腫瘤を全身に形成
  • 大きさは数mm~10cm以上
  • 生下時~学童期に生じ,増大する
  • 二次的に骨変形も生じる.
  • 大腸や,小腸に多発しやすく,出血による鉄欠性貧血や腸重積,出血死を引き起こす.

Maffucci 症候群

  • あた405
  • 先天性の中胚葉形成不全
  • 皮膚や内蔵の脈管奇形と内軟骨腫をきたす.
  • 皮膚は静脈奇形(海綿状血管腫)が多く,毛細血管奇形やリンパ管奇形も見られる.
  • 内軟骨腫は四肢に好発し,皮下結節として認める.
  • 骨折による脚長差を生じる.
  • 青年期以降進行はとまるが,軟骨肉腫を30%で認める.

先天性角化異常症 Zinnser-Cole-Engman症候群

  • あた405
  • 皮膚の網状色素沈着,爪甲変形,口腔粘膜の白板症様変化の3主徴
  • 常染色体優性遺伝,常染色体劣性遺伝,X連鎖性劣性遺伝のものがある.
  • 幼児期から思春期に初発.
  • 網状の色素沈着が頚部から始まり,体幹や四肢へ拡大して多形皮膚萎縮となる.
  • 白板症様変化が舌,頬粘膜,外陰部に好発し,ときに悪性化.
  • 再生不良性貧血や肺線維症などの全身臓器の異常も生じる.

先天性血管拡張性大理石様皮斑

  • あた405
  • 生下時か出生早期に生じるリベドを特徴とする.
  • 下肢に好発し,毛細血管奇形や静脈奇形を伴うことがある.
  • 生後2年以内にほどんどが消失
  • 奇形に注意.

von Hippel-Lindau 症候群

  • 常染色体優性遺伝
  • 脳脊髄の血管腫、網膜の血管腫、腎細胞癌、副腎褐色細胞腫、膵臓腫瘍
  • VHL遺伝子の異常
  • 皮膚では顔面,頭頸部の単純性血管腫(5% 程度と低頻度)
  • 一部の発症原因として遺伝子異常により遺伝子機能がなくなり血管新生因子を誘導する蛋白 (Hypoxia Inducible Factor)の過剰蓄積が腫瘍形成の原因とされる.

McCune-Albright症候群

  • GNAS 遺伝子のモザイク変異
  • 骨病変,内分泌異常,辺縁が不規則なカフェ・オ・レ斑を特徴とする
  • 偽性甲状腺機能低下症や偽性副甲状腺機能低下症に伴う低身長,肥満,円形顔貌,手指足趾の短縮,皮下の骨化石灰化を起こす.
  • 神経線維腫は生じない点でNF1と鑑別

Proteus 症候群

  • AKT1 遺伝子のモザイク変異
  • 巨指趾症,片側肥大症,巨頭症を特徴とする
  • 神経線維腫は生じない点でNF1と鑑別

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