有棘細胞癌診療ガイドライン2020

ガイドライン

有棘細胞癌の「棘」とは表皮有棘細胞の持つ「棘」すなわち細胞間橋のことである。
有棘細胞癌は有棘細胞(ケラチノサイト)への分化の特徴として、細胞間橋の形成、角化、シート状の増殖パターン、ケラチンの発言を示す。
有棘細胞癌は、日本においては基底細胞癌の次に多い皮膚悪性腫瘍。

発生母地は日光角化症(23.9%)>ボーエン病(6.4%)>熱傷瘢痕(4.0%)

1群 熱傷瘢痕、慢性放射性皮膚炎、化膿性汗腺炎、慢性円板状エリテマトーデス、褥瘡などの瘢痕や慢性炎症が長期持続する病態
2群 ボーエン病や日光角化症のようなSCC in situもしくはその早期病変
3群 色素性乾皮症や慢性ヒ素中毒などの全身的な疾患

日光角化症から有棘細胞癌への移行を疑う徴候
浸潤を触れるようになる、炎症、出血といった変化

日光角化症 病理
腫瘍細胞はしばしば表皮の下端から蕾状に増殖する(budding)
毛包間表皮の角層は通常錯角化を伴い好酸性に染色される。毛包漏斗部上皮では錯角化を伴わないことが多く好塩基性に染色される、これらの角層の好酸性の部と好塩基性の部が交互に出現することをpink and blue signという。
真皮に日光性弾力線維症を伴うことは日光角化症の病理診断においてほぼ必須の条件

ボーエン病 病理
個細胞壊死した細胞(dyskeratotic cells)
多核巨細胞にみえる異常角化細胞(clumping cell)
真皮に日光性弾力線維症はあってもなくてもよい

invasive SCC
臨床病理学的分類
日光角化症型
ボーエン病型
ケラトアカントーマ型
嚢腫型
外陰部型
瘢痕型
放射線皮膚炎型
色素性乾皮症型

その他の病理組織学的亜型
acantholytic SCC
spindle cell SCC
verrucous SCC
adenosquamous SCC
clear cell SCC
SCC with sarcomatoid differentiation
lymphoepithelioma-like carcinoma of the skin
pseudovascular SCC
SCC with osteoclas-like giant cell

免疫組織学的所見
多くの場合CK1, CK10(+)
AE1/AE3やCK5/6もほとんどの例で(+)
CK19しばしば(+)
CK7ほぼ(-)
EMA(+) Ber-EP4は基本的に(-) cf. BCCはEMA(-) Ber-EP4(+)

European Organization for Rsearch and Treatment of Canser(EORTC)のガイドラインではリンパ節転移の鑑別目的でのリンパ節への超音波検査が推奨され、特に腫瘍の厚みが6mmを超えると予測されるなどのハイリスク症例においては必須とされている。
センチネルリンパ節生検は直径2cmを超える病変に保険適応

局所再発と転移の95%は治療後5年以内に生じる。

関連疾患および鑑別疾患

疣状癌 verrucous carcinoma, verrucus squamous cell carcinoma
疣状ないしカリフラワー状を呈する高分化低悪性度の有棘細胞癌の一型
深部に進展するが転移はまれ
好発部位によって異名がある。

口唇 口腔花菜状乳頭腫症 oral florid papillomatosis
外陰部 巨大尖圭コンジローマ、Buschke-Löwenstein腫瘍 giant condyloma acuminatum
足底 epithelioma cuniculatum
下腿に好発する類癌性乳頭腫症(papillomatosis cutis carcinoides)を含めることもある。

病理組織学的に,非対称の外方性および内方性増殖を示す。
有棘細胞癌との鑑別点
(1)表皮突起の先端は鈍で球根状である(偽癌性増殖の細く尖った先端と対照的)
(2)浸潤/破壊性の増殖ではなく,膨張性/圧排性の増殖を示す(周囲組織を「突き刺す」より「押しのける」ように進展していく)
(3)腫瘍細胞の異型性が乏しく,異常角化,核分裂像も少ない。
(4)表皮内に好中球性膿瘍を形成する(好中球の存在は,診断の手掛かりとして重要)

外陰部ボーエン様丘疹症
ヒト乳頭腫ウイルスが検出されることが多い。
性的活動が高い若年者の発症が多い
病理 ボーエン病に類似
表皮の肥厚、配列の乱れ
表皮内に核異型や異型核分裂像、clumping cell、多核細胞
ハイリスク型のHPV16が典型例から検出される
子宮頸癌などの感染源となる可能性があるので液体冷凍凝固や電気焼灼で治療が推奨

ケラトアカントーマ(keratoacanthoma:KA)
病理
有棘細胞様細胞が中央に角栓を持つクレーター状の構築を示し,外・内向性に増殖する。
構成細胞はすりガラス状の淡好酸性細胞質を豊富にもつ角化細胞(large pale-pink cell)を特徴とする。
構成細胞にある程度の異型性がみられ得るが、large pale pink cellに異型が明らかでない場合,その病変は自然消退することが多い。
典型的なlarge pale-pink cellsではなく明らかな核異型がある細胞が領域的に存在する場合には自然消退能は損なわれ、悪性化するポテンシャルを有する。

基底細胞癌
SCCとの鑑別点
胞巣辺縁で核の柵状配列があること
腫瘍胞巣周囲にムチン(粘液)の貯留があること

有棘細胞癌が上皮(表皮あるいは付属器上皮)内病変を形成するのに対し,
基底細胞癌は上皮と連続はするが,上皮内病変は形成しない。
基底細胞癌は Ber-EP4(+)EMA(-)であるのに対し、SCCはBer-EP4(-)EMA(+)

汗孔癌(porocarcinoma)
汗孔癌では,核異型性のある有棘細胞様細胞(小皮縁/クチクラ細胞:cuticular cell)が管腔を形成する
(汗管分化する)所見が重要である.
汗孔癌と診断するためには,腫瘍細胞が確実に汗管分化していると言うことを証明する必要がある。
免疫組織化学染色では CEA(ポリクローナル)、CA19-9、CD117 が有用。

脂腺癌(sebaceous carcinoma)
脂腺癌の診断には,ヘマトキシリン・エオジン染色上で泡沫状の細胞質とホタテの貝殻状の核を持つ細胞として認識される脂腺分化細胞の存在が必要不可
免疫組織化学染色では、adipophilinが最も有用

有棘細胞癌は再発すると転移率が30.3%と高値
再建
reconstructive ladder 侵襲の少ない簡単な方法から再建を行う方法
reconstructive elevator より機能性や整容面を考慮して再建方法を決定する方法
分層植皮よりも全層植皮をした方が整容面はよい
顔面における採皮部は、耳前部>耳介後部>鎖骨上>鎖骨下の順で整容性に優れる。

術後放射線治療
術後放射線治療の適応
切除断端陽性もしくは近接,神経周囲浸潤、骨や神経への浸潤例や再発症例
照射線量
50 Gy/25回から 66 Gy/33回の照射が行われる。
リンパ節転移の頻度は少なく,予防照射の有用性は認められていない。

原発巣に対する根治的放射線療法
早期癌に対する根治的放射線療法は有効であり,局所効果は優れている。
照射線量は 2 cm 以下の腫瘍の場合、64Gy/32回程度
2 cm 以上の腫瘍の場合、66Gy/33回程度の通常分割による照射が標準的ではある
5Gy以上の1回線量では美容上の晩期有害事象が問題になる。
1回3Gyの51Gyから54Gyや、1回2.5Gyの合計50Gyから60Gyの照射は美容上問題になることは少ない。

薬物療法
シスプラチン、ブレオマイシン、5FU、セツキシマブが保険適応
PD-1阻害薬のcemilimabの臨床試験が行われ、FDAがSCCに承認した。

イミキモド
顔面・禿頭部の日光角化症以外は保険適応外(2019/3)

ブレオマイシン硫酸塩製剤、フルオロウラシル軟膏、凍結療法、光線力学療法
Mohsペースト 酸化亜鉛

日光角化症
初期 毛細血管の増加
次第に角化を伴う紅斑局面
DS
毛細血管の増生を反映して淡紅色の偽ネットワークがみられ,白色調の角化を伴う毛孔開大がみられるstrawberry patternを示す。

臨床病型
紅斑型
色素沈着型
疣状型
皮角型
肥大型

組織学的亜型
肥大型
萎縮型
類ボーエン型
棘融解型
色素沈着型
苔癬型

SCCへと進行する徴候
浸潤の触知,炎症,出血

ボーエン病

3-5%が有棘細胞癌に移行
高齢者の下肢にある薄い病変などは保湿のみで経過を見るという方法も示されている。
切除範囲は1-4mmを推奨。
手術療法、凍結療法、5-FU軟膏
イミキモド外用、Photodynamic therapy(PDT)は保険適応外(2019/4現在)

日光角化症
手術療法 1B
凍結療法 1B
イミキモド 1B (2011顔面、禿頭部のみ保険適応)
5-FU軟膏 1B
Photodynamic therapy(PDT) 1B 保険適応外(2019/4現在)

有棘細胞癌切除範囲
低リスク群4-6mm
高リスク群6-10mm

National Comprehensive Cancer Network のガイドライン(Version 1.2019)おける有棘細胞癌のリスク分類
発生部位と直径
 体幹・四肢(脛骨前部,手足を除く):直径 2cm 以上
 頰・前額・頭皮・頸部・脛骨前部:直径 1cm 以上
 マスク領域(顔面中心・眼瞼・眉毛部・眼窩周囲・鼻・口唇・頤・下顎・耳前部・耳後部)・陰部・手足:大きさを問わない
臨床所見
 境界不鮮明
 放射線照射部位や慢性炎症が発生母地
 再発例
 増大速度が大
 免疫抑制状態
 神経症状あり
組織学的所見
 低分化
 adenoid(acantholytic),adenosquamous,desmoplastic,metaplastic subtype
 皮下脂肪を超える浸潤
 腫瘍厚が 6mm 超
 神経・脈管浸潤あり
上記が 1 つも該当しない上記が 1 つも該当しないものを低リスク群、1 つでも該当すれば高リスク群とする。

根治手術不能有棘細胞癌の治療
放射性療法 B
薬物療法 C
白金製剤(シスプラチン)、タキサン製剤(ドセタキセル、パクリタキセル)、CPT-11(イリノテカン)、S-1
免疫チェックポイント阻害薬 cemiplimab
EGFR阻害薬 セツキシマブ(アービタックス)

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