多汗症診療の鑑別診断と治療,今後の展開

新・皮膚科セミナリウム

原発性多汗症の鑑別疾患・合併症

問診事項

  • 発汗の分布(左右対称性であるか・全身の中で無汗や,発汗低下,減汗の範囲がないか)に異常はないか.
  • 多汗症状を認める場面(飲食時の味覚性発汗や,夜間の発汗(寝汗)など)が特定のものでないか.
  • 発症時期,年齢は適切か(原発性発汗では 25 歳以下であることが多い).

原発性多汗症の典型的な症状と合致しないときには,続発性の多汗症も鑑別にいれて適宜追加検査を行う.

続発性多汗症

  • 全身性:薬剤性,薬剤乱用,循環器疾患,呼吸不全,感染症,悪性腫瘍,内分泌・代謝疾患(甲状腺機能亢進症,低血糖,褐色細胞腫,末端肥大症,カルチノイド腫瘍),神経学的疾患(パーキンソン病)
  • 局所性:脳梗塞,末梢神経障害,中枢または末梢神経障害による無汗から起こる他部位での代償性発汗(脳梗塞,脊椎損傷,神経障害,Ross syndrome),Frey syndrome,gustatory sweating,エクリン母斑,不安障害,片側性局所多汗症(神経障害,腫瘍など)

疾患の本態はその他の部位の発汗機能の低下や無汗であり,主訴は代償性の多汗であることがあることに注意.

続発性多汗症を鑑別する検査

  • 発汗測定:ミノール法など用いて発汗の左右差,全身の分布を確認する.
  • 採血:甲状腺機能などを含めた内分泌代謝疾患の確認.
  • 画像検査:胸腔内占拠病変や,脊椎損傷の有無の確認.
  • 自律神経の検査:腱反射,Tild-up 試験,末梢神経伝導速度など.

治療

塩化アルミニウム外用剤

  • 処置薬としての位置づけで保険適応として処方はできない.
  • 副作用は,刺激性接触皮膚炎.(ステロイド外用で治療)
  • 搔痒が出現したときには,保湿を併用する.
  • 作用機序は,皮膚の角層に沈着することで,汗腺出口を塞ぐ作用.
  • 眠前に外用,翌朝には外用部位を流水で洗い流す.

塩化アルミニウム製剤の作り方

  • ローションタイプ:粘膜以外のどの部位にも使用可能.使用部位や,小児か成人かなどを検討した上で10~50%濃度と,濃度を検討する.
  • クリームタイプ:主に手掌,足底の夜間 ODT として用いるのに適する.角層の厚さにより濃度は30~50%程度で準備する.
20% 塩化アルミニウム溶液
(エタノールなし)

塩化アルミニウム6水和物 20g

精製水 q.s.

全量 100mL

刺激皮膚炎の頻度を軽減

手足腋窩に有用

ODT治療に適する

50% 塩化アルミニウムクリーム

塩化アルミニウム6水和物 25g

親水クリーム 25g

精製水 適量

全量 50g

手掌,足底の角化が厚い部分に適する.

刺激皮膚炎に注意

ODT治療に適する

水道水イオンフォトレーシス

  • 掌蹠の多汗症に対して保険適用の治療.
  • 作用機序は電流を通電することにより生じる水素イオンが汗孔部を障害し狭窄させることにより発汗を抑制する,汗腺細胞のイオンチャネルに影響を与える可能性が考えられている.
  • 1回の通電時間は10~15分程度,電流の強さは5~20mA程度.
  • 禁忌は,体内に金属が装着されている者,妊婦.
  • 年齢制限はない.
  • 欧米では保険適応で自宅購入可能な制度がある.

ボツリヌス毒素療法

  • 重度の腋窩多汗症に対して A 型ボツリヌス毒素製剤(ボトックスⓇ)が保険適用.
  • コリン作動性神経終末からのアセチルコリンの放出を抑制する作用を持つことで発汗を抑制する.
  • 注射による皮下の投与で浸潤範囲のエクリン汗腺に有効.
  • ボツリヌス製剤には中和抗体はほとんどできることはないとされているが,投与間隔を守らないとリスクがあるため,腋窩の場合,次回投与まで4カ月空けることが必要である.
  • 顔面や手掌は自由診療.
  • 本邦においてボツリヌス毒素製剤を投与するには,事前に資格取得のための講習が必須.
  • 薬剤の失活廃棄について管理記録を各施設で保管することが義務付けられている.

抗コリン薬内服

  • 汗腺の明調細胞基底外側膜上に存在するムスカリン性M3受容体にアセチルコリンが結合することで,発汗を抑制.
  • 治療選択肢が乏しい頭部顔面の多汗症や,全身性の多汗症の患者に用いられることが多い.
  • 本邦では,glicopyrronium bromide(プロバンサインⓇ)が保険適用.
  • 禁忌は緑内障,前立腺肥大.
  • 発汗を抑制したい時間帯に使用.
  • 副作用 口渇,目の渇き,便秘などが主.散瞳,霧視,頭痛などがみられることがある.

胸部交感神経遮断術(ETS)

  • 発汗に関係する交感神経を切除,クリップ,焼灼などにより遮断する.
  • T4レベルの遮断はT2やT3レベルと比較して治療効果は同等で,中等度以上の代償性発汗の出現率が少ない傾向があるため,T2を避けたほうが好ましい.(ただし顔面に有効なのはT2レベル)
  • 代償性発汗は,両側の交感神経の損傷によりほぼ必発の合併症.

多汗症の部位別の治療選択肢と推奨度

  手掌 腋窩 頭部・顔面 全身

塩化アルミニウム製剤

重症例にはODT

〇~△ 〇~△
イオンフォトレーシス
ボツリヌス毒素

保険適応外

重症例に保険適応

保険適応外

保険適応外

ETS

〇(足は✕)

重症かつ難治例

〇~△

重症かつ難治例

△~✕
抗コリン薬

新しい治療展開

QbrezxaⓇ

2018 年に米国で抗コリン薬の外用薬Glycopyrronium Tosylate(QbrezxaⓇ)が発売.

今までの内服の抗コリン薬よりも,副作用の程度が軽度であることが期待されている.

ミラドライ

マイクロ波療法(miraDry(Miramar Lab 社,米国))

電磁波の一種であるマイクロ波をエクリン汗腺とアポクリン汗腺の大部分が存在する真皮深層から皮下組織浅層をターゲットに面で照射,熱破壊を起こす.

腋窩多汗症の治療に用いた際の 1 年後までの経過で治療した部位が有意差をもって発汗が減少したとの報告がある.

日皮会誌:131(1),29-33,2021(令和 3)より改変

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