手足症候群

その他

概念

抗がん剤によって手と足に好発する病変で,とくに手掌,足底に紅斑,腫脹,過角化,色素沈着などを生じることを特徴とする.しばしば同部に知覚異常や疼痛を訴える.また,爪甲の変化を伴うこともある.抗がん剤による表皮細胞への直接的,間接的障害に外的な機械的刺激が加わって発症,増悪する病態と考えられる.

原因となる薬剤

一般名 商品名 作用機序 剤形 治療対象疾患
フッ化ピリミジン系
カペシタビン ゼローダ 殺細胞性 内服 手術不能又は再発乳癌,結腸・直腸癌,胃癌
テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム テメラール 殺細胞性 内服 胃癌、結腸・直腸癌、頭頸部癌、非小細胞肺癌、手術不能又は再発乳癌、膵癌、胆道癌
フルオロウラシル 5-FU 殺細胞性 注射 胃癌、肝癌、結腸・直腸癌、乳癌、膵癌、子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌
ただし、下記の疾患については、他の抗悪性腫瘍剤又は放射線と併用することが必要である。
食道癌、肺癌、頭頸部腫瘍
以下の悪性腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用療法
頭頸部癌
※※※レボホリナート・フルオロウラシル持続静注併用療法
結腸・直腸癌、小腸癌、治癒切除不能な膵癌
テガフール・ウラシル ユーエフティ 殺細胞性 内服 テガフール・ウラシル通常療法
次の疾患の自覚的並びに他覚的症状の寛解:
頭頸部癌、胃癌、結腸・直腸癌、肝臓癌、胆のう・胆管癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、膀胱癌、前立腺癌、子宮頸癌
ホリナート・テガフール・ウラシル療法
結腸・直腸癌
キナーゼ阻害薬
ソラフェニブ ネクサバール マルチ(VEGFRなど) 内服 根治切除不能又は転移性の腎細胞癌,切除不能な肝細胞癌,根治切除不能な甲状腺癌
スニチニブ スーテント マルチ(VEGFRなど) 内服 イマチニブ抵抗性の消化管間質腫瘍,根治切除不能又は転移性の腎細胞癌,膵神経内分泌腫瘍
アキシチニブ インライタ マルチ(VEGFRなど) 内服 根治切除不能又は転移性の腎細胞癌
パゾパニブ ヴォトリエント マルチ(VEGFRなど) 内服 悪性軟部腫瘍
根治切除不能又は転移性の腎細胞癌
レゴラフェニブ スチバーガ マルチ(VEGFRなど) 内服 治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌,がん化学療法後に増悪した消化管間質腫瘍,がん化学療法後に増悪した切除不能な肝細胞癌
レンバチニブ レンビマ マルチ(VEGFRなど) 内服 根治切除不能な甲状腺癌、切除不能な肝細胞癌
カボザンチニブ カボメティクス マルチ(VEGFRなど) 内服 根治切除不能又は転移性の腎細胞癌,がん化学療法後に増悪した切除不能な肝細胞癌
ベバシズマブ アバスチン VEGFR 注射 治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌
扁平上皮癌を除く切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌
手術不能又は再発乳癌
悪性神経膠腫
卵巣癌
進行又は再発の子宮頸癌
ゲフィチニブ イレッサ EGFR 内服 EGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌
エルロチニブ タルセバ EGFR 内服 切除不能な再発・進行性で,がん化学療法施行後に増悪した非小細胞肺癌,EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な再発・進行性で,がん化学療法未治療の非小細胞肺癌
アファチニブ ジオトリフ EGFR 内服 EGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌
ダコミチニブ ビジンプロ EGFR 内服 EGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌
オシメルチニブ タグリッソ EGFR 内服 EGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌
セツキシマブ アービタックス EGFR 注射 RAS遺伝子野生型の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌
頭頸部癌
パニツムマブ ベクティビックス EGFR 注射 KRAS遺伝子野生型の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌
トラスツズマブ ハーセプチン HER2 注射 HER2過剰発現が確認された乳癌
HER2過剰発現が確認された治癒切除不能な進行・再発の胃癌
ペルツズマブ パージェタ HER2 注射 HER2陽性の乳癌
トラスツズマブ エムタンシン カドサイラ HER2 注射 HER2陽性の手術不能又は再発乳癌
HER2陽性の乳癌における術後薬物療法
ラパチニブ タイケルブ HER2 内服 HER2過剰発現が確認された手術不能又は再発乳癌
イマチニブ グリベック Bcr-Abl 内服 慢性骨髄性白血病
フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病
ダサチニブ スプリセル Bcr-Abl 内服 慢性骨髄性白血病
フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病
mTOR阻害薬
エベロリムス アフィニトール
サーティカン
mTOR 内服 根治切除不能又は転移性の腎細胞癌
神経内分泌腫瘍
手術不能又は再発乳癌
結節性硬化症
その他
ドキソルビシンリポソーム ドキソル 殺細胞性 注射 がん化学療法後に増悪した卵巣癌,エイズ関連カポジ肉腫
ドセタキセル タキソテール 殺細胞性 注射 乳癌,非小細胞肺癌,胃癌,頭頸部癌,卵巣癌,食道癌,子宮体癌,前立腺癌
パクリタキセル タキソール 殺細胞性 注射 卵巣癌、非小細胞肺癌、乳癌、胃癌、子宮体癌、再発又は遠隔転移を有する頭頸部癌、再発又は遠隔転移を有する食道癌、血管肉腫、進行又は再発の子宮頸癌、再発又は難治性の胚細胞腫瘍(精巣腫瘍、卵巣腫瘍、性腺外腫瘍)

フッ化ピリミジン系薬剤

発症時期

多くの症例では投与後4か月以内に初発するが10か月まで初発が認められるため長期にわたり留意が必要である.

早期症状

しびれ,チクチクまたはピリピリするような感覚の異常が認められる.この時期には視診では手足の皮膚に視覚的な変化を伴わない可能性がある.最初にみられる皮膚の変化は比較的びまん性の発赤(紅斑)である.少し進行すると皮膚表面に光沢が生じ,指紋が消失する傾向がみられるようになると次第に疼痛を訴えるようになる.

所見

初めはびまん性の紅斑,腫脹が出現する.進行すると角化し、色素沈着も伴う.

発症機序

皮膚基底細胞の増殖阻害、エクリン汗腺からの薬剤分泌、フルオロウラシルの分解産物の関与が想定されているが確定的な発症機序は不明

キナーゼ阻害薬

発症時期

早ければ投与後 1~2 週から発現し,発現のピークは1サイクル目(1か月以内)が多い.

徐々に発現頻度は減るが,服用開始から12週間程度は発現好発時期であり注意が必要.

慢性期になると,水疱の出現頻度は減るが難治性の胼胝など過角化が著明となり,有痛性で QOLを損なう原因となる.

早期症状

手指腹部,関節部や踵のような,物理的刺激のかかる部位など圧力のかかる部位に限局性に紅斑、水疱が生じることが多い。フッ化ピリミジン系薬剤などの抗癌剤と比較し臨床像は高度である.

所見

限局性のことが多く,発赤,過角化,知覚の異常,疼痛に始まり,水疱の形成へと進展する.

角化傾向が強く,圧力や摩擦がかかる部位,伸展部位である関節に生じやすい.

発症機序

皮膚基底細胞や皮膚血管などへの直接的作用が考えられるが、詳細な発症機序は不明

グレード

Grade 1

疼痛を伴わないわずかな皮膚の変化または皮膚炎(例:紅斑、浮腫、角質増殖症)

キナーゼ阻害薬では爪下線状出血斑(subungual splinter hemorrhage)が現れることがある。手指の爪にみられることが多く、足趾の爪には稀である。

Grade 2

手指関節部、手指側面や踵などの圧迫されやすい荷重部位に疼痛を伴う皮膚の変化を認める(例:角層剥離、水疱、出血、浮腫、角質増殖)

爪甲に変形、粗造化、混濁、萎縮や色素沈着を生じ、進行すると爪甲の脱落が起こることもある。

Grade 3

物を持ったり、歩行することが困難な疼痛を伴う高度の皮膚の変化で、日常生活を遂行できない症状(例:角層剥離、水疱、出血、浮腫、角質増殖)

鑑別疾患

  1. 手湿疹
    手足症候群に類似するが,利き手の指腹に症状が強く,足には症状がみられない.色素沈着も生じない.ただし,手足症候群と合併し,その増悪因子となることがあるので,注意を要する.
  2. 白癬
    直接顕鏡で菌要素を確認して鑑別.
  3. 凍瘡
    寒暖差などが誘因となって生じる局所の循環障害による病態である.発症の季節や寒冷への曝露歴が鑑別点になる.角化や色素沈着は伴わない.
  4. 掌蹠膿疱症
    小膿疱や小水疱が出没することと慢性の経過から鑑別
  5. 異所性湿疹
    小水疱が出没を繰り返すこと、色素沈着や爪甲の変化を伴わないことなどから鑑別
  6. 乾癬
    通常,他の身体部分(とくに頭部,膝蓋部,肘部など)に銀白色の厚い鱗屑を付す紅斑性病変が多発性に認められるので鑑別できる.

予防法

日常生活の指導を徹底する.

マルチキナーゼ阻害薬における手足症候群発症予防として尿素含有軟膏の有効性が実証されている.

ドキソルビシンリポソーム注射剤による手足症候群予防の特徴的な取り組みとして,手足の冷却がある.
冷却により手足の血管を収縮させることで手足への薬剤の到達量の減少を目標とする.手首や足首を冷却材で覆うことや冷却グローブの使用が試みられている.

治療

確実な処置は休薬
グレード1,2ではベリーストロングクラスからストロンゲストクラスのステロイドの外用

グレード3では短期ステロイド内服も考慮

腫脹が強い場合は下肢挙上や局所のcoolingが有効

二次障害の廃用症候群に注意

手足症候群による活動性低下が廃用症候群を引き起こす恐れがある.

  • 褥瘡の発生時間は1-2時間で発生
  • 肺塞栓症や脳梗塞を発生する可能性のある深部静脈血栓症は8時間程度で発生
  • 筋力低下は週に10~15%進行する、
  • 関節拘縮は 1~2 日で始まる

上記期間も考慮しつつ診療にあたる必要がある.

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