蕁麻疹診療ガイドライン

ガイドライン

蕁麻疹診療ガイドライオン2018をまとめました.

蕁麻疹の分類と特徴

特発性蕁麻疹 急性蕁麻疹
  • 発症して6週間以内
慢性蕁麻疹
  • 発症後6週間以上継続
刺激誘発型蕁麻疹 アレルギー性の蕁麻疹
  • 特定の抗原物質に対する特異的IgEを介した即時型アレルギー反応
  • 通常は抗原への曝露後数分から 1~2 時間以内に生じる.
  • 納豆アレルギー,一部の哺乳類肉アレルギー,アニサキスアレルギー等では,前日に摂取した食物により翌日アレルギー症状が現れることもある.
  • 口腔アレルギー症候群(oral allergy syndrome;OAS)

食物依存性運動誘発アナフィラキシー

  • 特定食物摂取後2~3時間以内に運動負荷が加わることにより生じるアナフィラキシー反応
  • 我が国では小麦,エビの症例が多い
  • NSAIDsにより増悪しやすい
  • 加水分解小麦含有石鹸で問題となった
非アレルギー性の蕁麻疹
  • 臨床症状,および原因物質への曝露により症状を生じる点では外来抗原によるアレルギー性の蕁麻疹と同様であるが,アレルギー機序を介さない.
  • I 型アレルギーの検査法により原因物質を同定することはできない.
  • 造影剤の静脈注射や,サバ,タケノコなどの摂取により生じる.
アスピリン蕁麻疹
  • アスピリンを始めとする NSAIDs の内服,注射または外用により誘発される蕁麻疹.
  • 慢性蕁麻疹,食物依存性運動誘発アナフィラキシーなどの他の蕁麻疹の増悪因子として作用することもある.
  • NSAIDs の持つCOXI 阻害作用によると考えられる.
物理性蕁麻疹 機械性蕁麻疹
  • 機械的擦過により生じる蕁麻疹
  • 小児では少ない
寒冷蕁麻疹
  • 寒冷曝露により生じる蕁麻疹
日光蕁麻疹
  • 日光照射により生じる蕁麻疹
温熱蕁麻疹
  • 温熱負荷により生じる蕁麻疹
遅延性圧蕁麻疹
  • 圧迫により生じる蕁麻疹
  • 一度出現すると数時間から2日間程度持続する
  • 小児では少ない
  • 物理性蕁麻疹の中では唯一ステロイド内服が有効
水蕁麻疹
  • 水との接触により生じる蕁麻疹
コリン性蕁麻疹
  • 小児から30 歳代前半までの成人に好発
  • 眼瞼,口唇に血管性浮腫を伴うこともある
  • 特に体表の25%以上の範囲の減汗を伴うものは特発性後天性全身性無汗症と診断され
    る.
接触蕁麻疹
  • 皮膚,粘膜が特定の物質と接触することにより接触部位に一致して膨疹が出現する.
血管性浮腫 特発性の血管浮腫 蕁麻疹の合併あり
  • 明らかな直接的誘因なく自発的に症状が出没する.
  • 毎日ではなく,数日以上の間隔をあけて出現することが多い.
刺激誘発型の血管浮腫
  • 通常の蕁麻疹と同様,外来抗原および NSAIDs を始めとする種々の薬剤,物理的刺激などを誘因として症状が出現する.
  • 遺伝性のものでは,ADGRE2遺伝子変異が同定されている
プラジキニン起因性の血管浮腫(HAEを除く) 蕁麻疹の合併なし
  • 血中に高濃度のブラジキニンが生じると浮腫が出現.
  • 指圧痕を残さない.
  • プラジキニンはC1エステラーゼ阻害因子(C1-INH)により制御され,アンギオテンシン変換酵素により分解される.
  • しばしば外傷,歯科治療,手術侵襲,感染,月経,疲労などが引き金となる
  • アンジオテンシン変換酵素阻害薬内服による場合は,内服を始めて数日~数週間して症状が出現することが多く,口腔,咽頭の浮腫を生じることが多い
遺伝性血管浮腫(HAE) Ⅰ型 C1-INHの量的低下
Ⅱ型 C1-INHの機能的低下
Ⅲ型 その他の遺伝子異常
蕁麻疹関連疾患 蕁麻疹様血管炎
  • 個々の皮疹が24時間以上持続し,皮疹消退後に色素沈着を残す.
  • 病理組織学的に好中球の核破砕像,血管内皮細胞の膨化,フィブリンの析出といった血管炎の像がみられる.
  • 全身性エリテマトーデス(SLE)に合併ないし移行する例がある.
色素性蕁麻疹
  • 皮膚局所にマスト細胞の過剰な集簇と色素沈着を認める疾患
  • 皮疹部を擦過するとその部位に一致して膨疹を生じる.これはダリエ徴候がみられる
  • 乳幼児では水疱を形成することもある
Schnitzler 症候群
  • 間欠熱,関節痛(関節炎),骨痛などを生じ,皮疹は慢性蕁麻疹と同様か,蕁麻疹様血管炎の像を呈する.
クリオピリン関連周期熱症候群
  • クリオピリン蛋白の遺伝子(NLRP3)の異常に起因し,インフラマソームが恒常的に活性化された状態が続き,IL-1β の産生が亢進
  1. 家族性寒冷誘発自己炎症性症候群(FCAS)
  2. Muckle-Wells症候群
  3. CINCA症候群
    の3つに分類される.

各論

特発性蕁麻疹

  • 個々の皮疹に関する直接的原因ないし誘因なく自発的に膨疹が出現する.
  • 個々の皮疹の持続時間は数十分から数時間以内のことが多いが,2~3 日持続する例もある.
  • 発症してからの期間が 6 週間以内のものを急性蕁麻疹,6 週間を越えたものを慢性蕁麻疹と呼ぶ.

急性蕁麻疹

  • 発症して6週間以内
  • 特に小児では,上気道などの一過性の感染に伴うものが多い.

慢性蕁麻疹

  • 発症して6週間以上のもの
  • 夕方から夜間にかけて症状が出現,悪化するものが多い
  • 病悩期間は数カ月から数年に亘ることも多い.
  • 抗ヒスタミン薬の効果には個人差があり,また治療効果が現れるのに3~4 日を要することもある.さらに,内服を続けていると週単位で症状が軽減することもあるので,1 つの抗ヒスタミン薬の効果は 1~2 週間継続して内服した後に判断することを基本とする
  • 国際ガイドラインでは抗ヒスタミン薬の他剤の追加よりも単剤の増量が推奨されている

刺激誘発型の蕁麻疹

  • 特定の刺激ないし条件が加わった時に症状が誘発されるもの.
  • 遅延性圧蕁麻疹を除き,基本的に個々の皮疹が数十分から数時間以内には消退する.

アレルギー性の蕁麻疹

  • 生体が食物,薬品,植物(天然ゴム製品を含む),昆虫の毒素などに曝露されることにより起こる.
  • 特定の抗原物質に対する特異的IgEを介した即時型アレルギー反応
  • 通常は抗原への曝露後数分から 1~2 時間以内に生じる.
  • 納豆アレルギー,一部の哺乳類肉アレルギー,アニサキスアレルギー等では,前日に摂取した食物により翌日アレルギー症状が現れることもある.
  • 口腔粘膜から吸収された未消化の食物抗原が摂取後数分~十数分以内に口腔粘膜を中心とした浮腫,違和感を始めとするアレルギー症状を生じることがあり,口腔アレルギー症候群(oral allergy syndrome;OAS)と呼ばれる.多種類の野菜,果物の他,ラテックス蛋白の交叉反応に注意する必要がある.食物アレルギー参照.
  • 詳しい問診に基づいて原因として疑われる抗原を絞り,各種臨床試験により責任抗原を同定することが望ましい.
  • プリックテスト,スクラッチテスト,抗原特異的に結合する血清IgE測定,患者末梢血好塩基球活性化またはヒスタミン遊離試験,被疑抗原による負荷(誘発)試験等が行われる.

食物依存性運動誘発アナフィラキシー

  • 特定食物摂取後2~3時間以内に運動負荷が加わることにより生じるアナフィラキシー反応
  • 我が国では小麦,エビの症例が多い
  • NSAIDsにより増悪しやすい
  • 原因食物とNSAIDs の摂取のみで症状が誘発されることもある
  • 加水分解小麦含有石鹸で問題となったが,該当製品の販売中止と自主回収により多くの患者で過敏性は解消ないし軽減しつつある.

非アレルギー性の蕁麻疹

  • 臨床症状,および原因物質への曝露により症状を生じる点では外来抗原によるアレルギー性の蕁麻疹と同様であるが,アレルギー機序を介さない.
  • I 型アレルギーの検査法により原因物質を同定することはできない.
  • 造影剤の静脈注射や,サバ,タケノコなどの摂取により生じる.

アスピリン蕁麻疹

  • アスピリンを始めとする NSAIDs の内服,注射または外用により誘発される蕁麻疹.
  • 慢性蕁麻疹,食物依存性運動誘発アナフィラキシーなどの他の蕁麻疹の増悪因子として作用することもある.
  • アスピリン喘息と同じく,NSAIDs の持つシクロオキゲナーゼ(cyclooxygenase;COX)I 阻害作用によると考えられる.しかし両者が合併することは少ない.
  • アセトアミノフェン,チアラミド塩酸塩などの COX 阻害作用のない薬剤か,COX2 選択性が高い(COX1 に対する阻害活性が小さい)薬剤が相対的に安全である.

物理性蕁麻疹

遅延性圧蕁麻疹の皮疹は,一度出現すると数時間から2日間程度持続するが,それ以外の物理性蕁麻疹の皮疹は基本的に出現後数分ないし 2 時間以内に消退する.

機械性蕁麻疹
  • 機械的擦過により生じる蕁麻疹
  • 小児では少ない
寒冷蕁麻疹
  • 寒冷曝露により生じる蕁麻疹
日光蕁麻疹
  • 日光照射により生じる蕁麻疹
温熱蕁麻疹
  • 温熱負荷により生じる蕁麻疹
遅延性圧蕁麻疹
  • 圧迫により生じる蕁麻疹
  • 一度出現すると数時間から2日間程度持続する
  • 小児では少ない
  • 物理性蕁麻疹の中では唯一ステロイド内服が有効
水蕁麻疹
  • 水との接触により生じる蕁麻疹

コリン性蕁麻疹

  • 入浴,運動,精神的緊張など,発汗ないし発汗を促す刺激が加わった時に生じる.
  • 小児から30 歳代前半までの成人に好発
  • 眼瞼,口唇に血管性浮腫を伴うこともある
  • 特に体表の 25%以上の範囲の減汗を伴うものは特発性後天性全身性無汗症と診断され

接触蕁麻疹

皮膚,粘膜が特定の物質と接触することにより接触部位に一致して膨疹が出現する.

血管性浮腫

  • 皮膚,粘膜の限局した範囲に出現する深部浮腫で,数日以内に跡形無く消退する.
  • 顔面,特に口唇,眼瞼に好発し,強い気道浮腫を生じると窒息の危険性がある.
  • 皮疹部に組織障害がなく,突然出現しては消退する経過は他の表在性の蕁麻疹と同様である
  • 必ずしも痒みがあるわけではない.
  • 個々の皮疹は 2,3 日持続することが多い.

特発性の血管性浮腫

  • 明らかな直接的誘因なく自発的に症状が出没する.
  • 毎日ではなく,数日以上の間隔をあけて出現することが多い.
  • 通常の蕁麻疹と同様のマスト細胞が関与しているものと考えらている.
  • 蕁麻疹の合併あり.

刺激誘発型の血管性浮腫

  • 通常の蕁麻疹と同様,外来抗原および NSAIDs を始めとする種々の薬剤,物理的刺激などを誘因として症状が出現する.
  • 遺伝性のものでは,ADGRE2遺伝子変異が同定されている
  • 通常の蕁麻疹と同様のマスト細胞が関与しているものと考えらている.
  • 蕁麻疹の合併あり.

ブラジキニン起因性の血管性浮腫

  • 血中に高濃度のブラジキニンが生じると浮腫が出現.
  • 指圧痕を残さない.
  • 蕁麻疹の合併はない.
  • プラジキニンはC1エステラーゼ阻害因子(C1-esterase inhibitor;C1-INH)により制御され,キニナーゼ(アンギオテンシン変換酵素)により分解される.(R2-87
  • しばしば外傷,歯科治療,手術侵襲,感染,月経,疲労などが引き金となる
  • アンジオテンシン変換酵素阻害薬内服による場合は,内服を始めて数日~数週間して症状が出現することが多く,口腔,咽頭の浮腫を生じることが多い
  • C1-INH活性低下の原因には,
    ①C1-INH 遺伝子(SERPING1)の異常による C1-INH 蛋白の量的低下(HAE I 型)
    ②機能的低下(HAE II型)
    ③骨髄増殖性疾患などによる過剰な消耗
    ④抗C1-INH自己抗体(自己免疫性血管性浮腫)などがある.
    HAEは診断,検査,治療の点で他の血管浮腫と異なる面が多く,下記に別疾患として分類.
  • 補体 C3,C4,CH50,C1-INH 活性などを測定する.

遺伝性血管性浮腫(hereditary angioedema;HAE)

HAE I型 C1-INH の量的低下 C1-INH 遺伝子(SERPING1)異常
HAE Ⅱ型 C1-INH の機能的低下  
HAE Ⅲ型 その他の遺伝子の異常 血液凝固第 12 因子遺伝子,アンジオポエチン(angiopoietin)-1 遺伝子(ANGPT1)およびプラスミノーゲン(plasminogen)遺伝子の異常が報告されている.

その他の蕁麻疹および蕁麻疹類似疾患

蕁麻疹様血管炎

  • 個々の皮疹が24時間以上持続し,皮疹消退後に色素沈着を残す.
  • 病理組織学的に好中球の核破砕像,血管内皮細胞の膨化,フィブリンの析出といった血管炎の像がみられる.
  • 全身性エリテマトーデス(SLE)に合併ないし移行する例がある.

色素性蕁麻疹

  • 皮膚局所にマスト細胞の過剰な集簇と色素沈着を認める疾患
  • 皮疹部を擦過するとその部位に一致して膨疹を生じる.これはダリエ徴候がみられる
  • 乳幼児では水疱を形成することもある

Schnitzler症候群およびクリオピリン関連周期熱症候群

自己炎症性症候群の中で蕁麻疹と似た多形の皮疹を生じるもの.

Schnitzler症候群
  • 間欠熱,関節痛(関節炎),骨痛などを生じ,皮疹は慢性蕁麻疹と同様か,蕁麻疹様血管炎の像を呈する.
  • 血清中にモノクローナルな IgM または稀に IgG の増加を伴う.
  • 抗ヒスタミン薬は無効
  • ステロイド,コルヒチン,ヒドロキシクロロキン,アナキンラ(IL-1 受容体拮抗蛋白),カナキヌマブ(抗 IL-1β モノクローナル抗体)等
クリオピリン関連周期熱症候群
  • クリオピリン蛋白の遺伝子(NLRP3)の異常に起因し,インフラマソームが恒常的に活性化された状態が続き,IL-1β の産生が亢進する.
  • 蕁麻疹に似た多形の皮疹が出没するが,それらは痒みを伴わない.
  • 抗ヒスタミン薬,ステロイドは無効
  • アイスキューブテストで,氷を5分間持たせても膨疹が惹起されない点で寒冷蕁麻疹と鑑別する.
  • IL-1β の作用を阻害する薬剤としてアナキンラ,リロナセプト(可溶化 IL-1 受容体結合蛋白),カナキヌマブ

家族性寒冷誘発自己炎症性症候群(familial cold-induced autoinflammatory syndrome;FCAS)

  • 寒冷刺激により誘発される蕁麻疹を主たる症状とする.
  • 軽症例では,全身が低温にさらされないと症状が現れないことがある.
  • NLRP3 遺伝子の異常によるもののほか,NLRP12 遺伝子,NLRC4 遺伝子,PLCG2(ホスホリパーゼ Cγ2)遺伝子の異常によるものがある.
  • NLRC4 異常症は CAPS とは別の指定難病に分類されている.

Muckle-Wells症候群

寒冷と無関係に出現し長く続く蕁麻疹,進行性の感音性難聴とアミロイドーシスによる腎不全を主徴とする.

chronic infantile neurological cutaneous articular(CINCA)症候群

新生児期に発症し,全身に出現する紅斑,無菌性髄膜炎などの神経症状と膝関節の成長軟骨異常増殖を特徴とする関節炎を主徴とする.

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