メラノーマ診療ガイドライン

ガイドライン

皮膚悪性腫瘍ガイドライン第 3 版 メラノーマ診療ガイドライン 2019を中心にまとめました.

疫学

  • 表在拡大型,末端黒子型,悪性黒子型,結節型の 4 病型と粘膜型に分類.
  • 日本における罹患率 1.12/10万人・年
  • 日本では,末端黒子型(42%)>表在拡大型(20%)>結節型(10%)>悪性黒子型(8%)>粘膜原発(8%)>脈絡膜原発(1%),原発不明(3%)
  • 米国では表在拡大型が63%で,予後は5年生存率が90%で日本の77%と比較して予後がよい.

遺伝子変異と病型との相関

  • BRAFV600E の遺伝子変異は low-CSD(cumulative sun damage:CSD)で高率に認めるが,その他の型では頻度が低い.
  • 日本人における,BRAF 変異の割合(原発巣の部位別)
    被髪頭部(80%),体幹四肢(56~72%),頸部(44%)
    手掌足底では 9~13%.
  • KIT 遺伝子の異常は,low-CSDよりもacral,mucosal,high-CSDの型で多い.

病気分類

T分類

  • 腫瘍の厚さ(tumor thickness:TT)は,皮膚表面に対して垂直方向に病巣の厚さを0.01 mm 単位まで測定し,一番厚い箇所を採用する.
  • 表皮がある部位は顆粒層の最上層から,欠損している場合は潰瘍底から測定する.(R2-66
  • TT が 1 mm以下の場合,0.01 mm 以下の小数点は四捨五入し,0.1 mm 単位で記載する.
    0.75 mm~1.04 mm T1b
    1.05 mm~2.04 mm T2
  • 潰瘍は,組織学的に表皮の全層欠損を認め,フィブリン沈着や急性炎症性の浸出液といった生体反応を伴う所見と定義される.外傷などの潰瘍は潰瘍と評価すべきでない.
  • Tis(メラノーマ in situ)やT1aではセンチネルリンパ節生検は必要としない.T1b,T2aは話し合いの上検討する.(R2-66

N分類

  • “臨床的に潜在性の転移”は臨床所見や画像評価では検出されずにセンチネルリンパ節生検によって顕微鏡観察下ではじめて明らかになる転移をいう.
  • “臨床的に明らかな転移”は臨床所見や画像評価で明らかな転移をいう.
  • 衛星転移は,臨床的に確認される皮膚もしくは皮下結節であり,原発巣からの距離が 2cm 以内に生じたもの.
  • 顕微鏡的衛星転移は,顕微鏡下に確認される原発巣に隣接もしくは原発巣の深部に生じた転移病変であり,原発巣とは正常の間質を隔てて完全に離れているもの.
    原発巣と転移病変との間に線維性瘢痕が介在している場合や炎症所見を伴う場合は,顕微鏡的衛星転移ではなく原発巣の進展と捉える.
  • in-transit 転移は原発巣からの距離が 2 cm を超えた皮膚または皮下組織への転移であり,領域リンパ節を超えないもの.

M 分類

  • 第 8 版では,中枢神経系(脳,脊髄,軟髄膜等)への転移が新たな項目として追加された.

メラノーマの危険因子

  • 慢性の紫外線暴露よりも間欠的,大量の紫外線暴露が危険因子.日焼け回数に応じて発生リスクが上昇するとの報告がある.
  • 日本人に多い末端黒子型では紫外線暴露の影響は考えにくく,むしろ荷重などの機械的ストレスの関与が想定されている.
  • 先天性巨大色素細胞母斑(成人の時点で長径が 20 cm を超えることが予測される先天性に存在する色素細胞母斑)では,2.3~7.5%でメラノーマが発生するといわれており,その多くが幼少期に生じる.真皮内胞巣から発生するため注意が必要.

メラノーマの診断

ABCD(E)ルール

  1. Asymmetry
  2. Border irregularity
  3. Color variegation
  4. Diameter>6 mm
  5. Evolution

生検

  • 全切除生検は,理想的な生検方法は,病巣辺縁より 1~3 mm の側方マージンを付し,深部は取り残しの生じない程度の十分な深さで切除する全切除生検である.
  • 四肢の病変でセンチネルリンパ節生検(SLNB)を行う可能性が高い場合は,リンパ流を考慮して,四肢の長軸方向に一致するような一次縫合が可能かについても検討する.
  • 掌蹠の in situ 疑い病変に対する部分生検では,パンチ生検より皮溝皮丘に平行な紡錘形の生検が望ましく,病理標本の切り出しが皮丘と皮溝に垂直になるよう病理依頼書に明記する必要がある.
  • 部分生検によって,メラノーマ細胞がリンパ管や血管に入ることで患者の予後に明らかな悪影響を及ぼすという報告はない

スクリーニング検査

  • SLNB 施行予定の有無にかかわらず保険適用の範囲内でスクリーニング画像検査(多くは頸部または胸部から骨盤鼠径部の造影 CT)を行うことは許容される.
  • 胸部 XP は偽陽性が多いことから,メラノーマ肺転移のスクリーニング目的に使用することはできない.
  • 予後の良いTisおよびSLNBの適用とならない T1a 症例については,通常本邦においても転移スクリーニング目的の画像検査は不要とする報告が多く,基本的に画像検査は不要であるが,何らかの必要性があれば領域リンパ節群のエコー検査は考慮してもよい.
  • CT によるスクリーニング画像検査は十分な診断性能を有しており,本邦では保険適用を考慮したうえで診療上必要な場合に PET/CT 検査を追加で行うこととする.

治療

  • SLN 転移陽性患者には,患者の同意をもって「リンパ節郭清術」の治療選択が行われるべき

経過観察の方法

側方マージン

SLNB

  • Tis(メラノーマ in situ)やT1aではセンチネルリンパ節生検は必要としない.T1b,T2aは話し合いの上検討する.(R2-66
  • 色素法単独での SLN 同定率は 80%程度に留まるため,単独での使用は避け他の手法との組み合わせ,または補助として使用する.
  • RI法では,一般的に放射性活性がバックグラウンドの 2 倍以上で,かつ放射性活性が最高の hot node の10%までのリンパ節を SLN とする.
  • ICG 蛍光法は,ICG が血中のアルブミンと結合して生じる近赤外線領域の蛍光を医療用 Charge Coupled Device(CCD)カメラで捉えることで皮下 1~2 cm の深さにあるリンパ流やリンパ節をリアルタイムで観察する手法.

リンパ節郭清

  • 腋窩は,内側を側胸壁,前壁を大胸筋と小胸筋,後壁を広背筋と肩甲下筋,外側壁を烏口腕筋と上腕筋,頭側を腋窩静脈で囲まれた空間となる.
  • 鼠径リンパ節郭清術ではリンパ節がレベル分類されておらず,大腿浅筋膜と縫工筋・長内転筋の深筋膜の間の皮下脂肪組織に存在する浅鼠径リンパ節と深筋膜下で大腿動静脈に沿って存在する深鼠径リンパ節に分けられる.
  • 膝窩部は大腿二頭筋,半腱
  • 様筋,半膜様筋,腓腹筋で菱形状に囲まれた領域となる.

放射線療法

  • アブスコパル効果;放射線療法によって照射野外の病変も同時に縮小する現象.
  • 重粒子線治療,陽子線治療,BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)は皮膚メラノーマの保険適応外

術後補助療法

  • ダブラフェニブ(BRAF阻害)+トラメチニブ(MEK阻害),ニボルマブ(抗 PD-1 抗体),ペンブロリズマブ(抗 PD-1 抗体)は保険適応あり
  • ベムラフェニブ(BRAF阻害),イピリムマブ(抗CTLA-4抗体)は保険適応なし
  • インターフェロンαは製造中止.
  • DAVFeron療法は今はほとんど行われていない.
  • 完全切除が得られた術後病期 IIIB から IV(AJCC 第 7 版)のメラノーマに対して,ニボルマブを用いた 1 年間の術後補助療法を行うことを推奨する 1A
  • 完全切除が得られた術後病期 IIIA(センチネルリンパ節転移巣の長径が 1 mm 超のみ)から IIIC(AJCC 第 7 版)のメラノーマに対して,ペムブロリズマブを用いた 1 年間の術後補助療法を行うことを推奨する 1A
  • 完全切除が得られた術後病期 IIIA(センチネルリンパ節転移巣の長径が 1 mm 超のみ)から IIIC(AJCC 第 7 版)の BRAFV600E/K 変異を有するメラノーマに対して,ダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法を用いた 1 年間の術後補助療法を行うことを推奨する 1A
  • 完全切除が得られた術後病期 III(AJCC 第 6版)のメラノーマに対して,ペグインターフェロン αを用いた最長 5 年までの術後補助療法を行うことを提案する 2A
  • 完全切除が得られた術後病期 IIIA(センチネルリンパ節転移巣の長径が 1 mm 超のみ)から IIIC(AJCC 第 7 版)のメラノーマに対して,イピリムマブ(10 mg/kg:本邦未承認用量)を用いた最長 3 年までの術後補助療法を行わないことを提案する 3A

進行期治療

  • ニボルマブ(抗 PD-1 抗体),イピリムマブ(抗CTLA-4抗体),イピリムマブ(抗CTLA-4抗体)+ニボルマブ(抗 PD-1 抗体),ペンブロリズマブ(抗 PD-1 抗体),ダブラフェニブ(BRAF阻害)+トラメチニブ(MEK阻害),ベムラフェニブ(BRAF阻害),エンコラフェニブ(BRAF阻害)+ビメチニブ(MEK阻害)は保険適応
  • 殺細胞性抗がん剤はDITC療法などがおこわなれてきたが,免疫チェック阻害薬などの台頭によりあまり行われなくなった.

抗PD-1抗体治療

  • DNA 複製エラー(DNA ミスマッチ)を修復する遺伝子の異常による,遺伝子変異が起こりやすい素因に基づいて発生した多種類の固形癌を対象に行われた臨床試験では,抗 PD-1 抗体が著効した
  • 本邦では,マイクロサテライト不安定性が高い(MSI-high),DNA ミスマッチ修復欠損(dMMR)のある切除不能または転移性の固形癌に対して,標準的な治療が困難な場合に限り,腫瘍の臓器や組織型に関わらず,ペムブロリズマブの使用が承認された.
  • a)腫瘍浸潤 CTL 数の多さ,b)腫瘍浸潤PD-1 陽性細胞数の多さ,c)腫瘍組織の PD-L1 発現率の高さ,の順に,抗腫瘍効果と相関することが報告された.

コメント

タイトルとURLをコピーしました