ハンセン病
- らい菌(M. leprae)による慢性感染症.
- NTDsのひとつ.
- 主として皮膚と末梢神経を侵す.
- 感染力は極めて弱く、ヒトの体内に侵入しても発病することはきわめてまれ.
- 潜伏期間は極めて長く、数年から数十年である。
- 仮に発病しても早期発見・早期治療により完治する.
- ハンセン病で死ぬことはない.
診断基準
日本での診断
以下の4項目を総合して診断
a)知覚低下を伴う皮疹
b)神経麻揮・肥厚・運動障害
c)らい菌検出
d)病理組織所見
WHOの診断
以下の3項目の内、1項目以上を満たす(Healthworker診断可能)
a)知覚脱失を伴う皮疹
b)知覚脱失を伴う末梢神経肥厚
c)皮膚スメア検査で菌陽性(観血的、設備がある場合)
Ridley & Jopling分類
らい病に対する細胞性免疫による分類方法
感染ごく初期の未定型群 | I (Indeterminate group) | I |
細胞性免疫がある程度保たれており,類上皮細胞肉芽腫を形成して菌量が少ない群 | T (tuberculoid type) | TT |
TとLの中間型 | B (borderline type) | BT BB BL |
細胞性免疫が欠如して粟粒結核のように多くのらい菌が増殖する群 | L (lepromatous type) | LL |
WHO分類
らい菌の菌量に対する分類
皮疹が2-5個で菌陰性 | 小菌型(PB; Paucibacillary type) |
皮疹が6個異常で菌陽性 | 多菌型(MB; Multibacillary type) |
分類と臨床型
菌数による分類 | 小菌型(paucibacillary : PB) | 多菌型(multibacillary : MB) | |||
免疫学的分類 | I | TT | BT,BB,BL | LL | |
皮疹の分布 | 非対称 | 対称性 | |||
皮疹の性状 | 斑(環状斑),境界明瞭 | 紅斑(環状斑),丘疹,結節 | |||
皮疹の表面 | 乾燥性,無毛 | 光沢,平滑 | |||
皮疹の知覚異常 | 高度(触覚,痛覚,温痛覚) | 軽度ないし正常 | |||
病理所見 |
類上皮細胞性肉芽腫 巨細胞,神経への細胞浸潤 |
組織球性肉芽腫 組織球の泡沫状変化 |
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皮膚スメア検査 | 陰性 | 陽性 | |||
神経肥厚 | 限局して不規則に | 皮疹形成後期で生じる |
治療
リファンピシン(RFP)、サルファ剤(DDS)、クロファジミン(CLF)を小菌型では半年,多菌型では数年間内服.
らい菌の特徴
- Ziehl-Neelsen染色(Fite染色)で赤染する桿菌
- 毒力はきわめて弱い
- 分裂と増殖に長時間(12日間)を要する
- ヌードマウスやアルマジロに接種すると増殖する
- 発育至適温度は31℃である
- 偽遺伝子(pseudogene)が多い→人工培養不可
- らい菌特異的な細胞性免疫でらい菌は排除される
らい反応
1型らい反応(境界反応,リバーサル反応) |
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2型らい反応(らい性結節性紅斑) |
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2型らい反応
- ハンセン病の多菌型(multibacillary type, MB, Ridley-Jopling 分類では LL 型と BL型に相当する)の患者に生じる.
- MB 患者の中でも高い菌指数(bacterial index: BI)の患者に発生しやすい.
- ハンセン病の薬物治療開始数カ月後から生じることが多いが,治療の有無にかかわらず、治療前,治療終了後にも発症することがある。
らい性結節性紅斑(ENL)に対するサリドマイド診療ガイドライン参照
2型らい反応の機序
- MB患者ではらい菌抗原に対する細胞性免疫が十分に作動しないため、菌が増殖を続ける.
- 抗生剤などでその菌体が破壊され、菌体からの多量の抗原が組織や血流中に放出され,その抗原に対する抗体が産生される.
- そこで抗原抗体の免疫複合物が形成され、補体の活性化を生じ、それらが組織や血管を障害するのが2型らい反応.
- 病理組織学的には、真皮および皮下脂肪織に多数の好中球浸潤が認められる。蛍光抗体法で血管壁に免疫複合物の沈着が証明されることがある.
2型らい反応の臨床症状
- 39〜41℃の高熱、全身倦怠、関節痛が生じる.
- 菌抗原のあるところでは、皮膚・神経・眼・リンパ節・関節・精巣などどこでも急性炎症を起こす.
- 経過は年余にわたることがある.
皮膚症状 |
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神経症状 |
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眼症状 |
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全身症状 |
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2型らい反応の治療
- 安静.仕事,学業は無理のない程度に.
- 軽装では対症療法
- 重症例はサリドマイドやステロイド
- 2型らい反応治療中でも,抗ハンセン病薬の治療は継続する.
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